再放送してほしいNHK番組 『低線量被ばく 揺らぐ国際基準』 (2011.12.28放送)

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再放送してほしいNHK番組 『低線量被ばく 揺らぐ国際基準』

( 2013/09/14 風の便り )

福島原発から排出される汚染水には多量の放射性トリチウムが含まれていますが、2011年12月にNHKが放送した『追跡!真相ファイル 低線量被ばく 揺らぐ国際基準』という番組は、低線量被ばくの危険性を伝える海外取材の中で、放射性トリチウムがもたらした子どもたちの病気について報告しています。

世界一の原発大国アメリカの3つの原発が集中しているイリノイ州の原発から排出される汚水には放射性トリチウムが含まれていますが、政府は国際基準以下なので影響はないとしてきました。しかし近くの町では、子どもたちがガンなどの難病で亡くなっていました。原発周辺の地域だけが脳腫瘍や白血病が30%以上増加。中でも小児ガンは、およそ2倍に増えていました。

トリチウム40兆ベクレル流出か(2013年8月記事)

追跡!真相ファイル File.76 低線量被ばく 揺らぐ国際基準(動画)からの書き起こし
(NHK総合・2011.12.28)

追跡キャップ:鎌田 靖
追跡サポーター:室井佑月
追跡チーム:涌井洋、西脇順一郎

<千葉・柏市街地>

室井「幼稚園とかも普通にやってますね。こんな住宅街の中に(立ち入り禁止区域が)あるんですか?」

福島第一原子力発電所の事故から9カ月、私(※鎌田)は作家の室井佑月さんとともに千葉県の柏市を訪ねました。

鎌田「あ、これだ。これだ」(道路に「通行止」の看板)

原発からおよそ200キロ、一部の場所で今も放射性物質が検出されています。

鎌田「住民の人たちにとって本当に驚きだろうし・・・」
室井「不安だと思いますよ」

一児の母親でもある室井さんは、同じように不安を抱える人たちからの依頼を受けて、各地で放射線量を測る活動を続けてきました。

室井(地表を測りながら)「0.55(マイクロシーベルト)毎時」
鎌田「年間にすると・・・4.8ミリシーベルト」

<「ベクミル」>

食品に含まれる放射性物質の量を調べる民間の施設です。国は生涯100ミリシーベルトを上限に食品の安全基準を定めています。しかし人々の反応は・・・

「子どもに関しては、この数値でも心配だなと思っています」
「皆さん今の(国の)基準を信じている人は殆どいらっしゃらないと思います」

室井「だから、やっぱり根拠なんですよ。ただちに影響がないとか言われても根拠がないので、よけい一層不安なんですよ」

国が根拠としているのがICRP(国際放射線防護委員会)が定める基準です。100ミリシーベルト以下の低線量の被曝のリスクは極めて小さく、殆ど影響がないとしています。

本当にそうなのか?

低線量被曝の実態を調べるため、追跡チームは海外を取材しました。

チェルノブイリ原発事故の影響を受けた北欧スウェーデン。放射線のレベルはあまり高くなかったこの地域でも、ガンが増えていました。

食べ物を通して被害が広がったと見られています。

「私たちは何も悪くないのに、なぜこんな目に遭うのでしょう」(住民の声)

さらに国際基準を作ったICRPの当事者たちにも取材。低線量のリスクはどう決められたのか。驚くべき事実が明らかになりました。

ICRP名誉委員
「低線量のリスクはどうせわからないのだから、半分に減らしたところで大した問題はない」
「科学的な根拠はなかった。我々の判断で決めたのだ」

揺れ動く国際基準。知られざる低線量被曝の実態とは。追跡が始まる。

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これまで、殆ど影響がないとされてきた低線量被曝。それに疑問を投げかける事態が世界で起きています。スウェーデン北部ベステルボッテン県。古くから少数民族サーメの人々が暮らしてきました。

「いま周辺でガンが増えています。放射能が原因ではないかと疑っています」
(住民の声)

原因と見られているのは、25年前に起きたチェルノブイリ原発事故。放射性物質を含んだ死の灰は、1500キロ離れたサーメの町まで降り注ぎました。当時の放射線レベルは、年間およそ0.2ミリシーベルト。国際基準の5分の1程度の低いレベルでした。

しかし今、ガンになる住民が増えています。事故の前と比べると、34%増加しました

事故直後スウェーデン政府は、食べ物に含まれる放射性物質の安全基準を設けました。

人々がよく食べるトナカイの肉は1kgあたりの上限が300ベクレル。
現在(※2011年12月当時)の日本の暫定基準値(500ベクレル)より厳しい値です。

サーメの人々は食べる肉の量も減らし、体への影響を抑えようとしてきました。

「いつガンになるかわからないし、子や孫への影響も心配です」

なぜガンが増えたのか。住民の調査を続けてきたマーティン・トンデル博士は汚染された食べ物を体内に取り込んだことでリスクが高まったのではないかと見ています。

トンデル博士は汚染地域で暮らす全ての住民110万人のデータを解析。ガンになった人の被曝量を調べると、事故後10年間の積算でいずれも10ミリシーベルト以下だったことが分かりました。ICRPが殆ど影響がないとしている低線量でも、ガンになる人が増えていたのです。

真相ファイル:10mSv以下でガン発症

「この結果に驚きました。明らかになったリスクがICRPより高かったからです。リスクは外からの被曝だけでなく、内部被曝に左右されるのです」(トンデル博士)

次に追跡チームが向かったのは、世界一の原発大国アメリカ。ここではより影響を受けやすい子どもたちに深刻な問題が起きていました。イリノイ州シカゴ郊外。周辺に3つの原発が集中しています。

原発から排出される汚水には放射性トリチウムが含まれていますが、アメリカ政府は国際基準以下なので影響はないとしてきました。

しかし近くの町では子どもたちがガンなどの難病で亡くなっていました

6年前に建てられた慰霊碑。足元のレンガにはこれまでに亡くなった100人の名前が刻まれています。

住民「(涙ぐみながら)これが亡くなった息子の写真です。
この痛みは誰にも伝えずに抱えてきました・・・」

住民を代表し、被害を訴えている親子がいます。シンシア・ソウヤーさんとその娘セーラさんです。

セーラさんは10年前、突然脳腫瘍を患いました。治療の後遺症で、18歳になった今も、身長は140cmほどしかありません。

「みんな死んでしまったのに、私だけが生きていて悲しいです・・・」

(セーラさんを抱きしめるシンシアさん)

セーラさんが脳腫瘍になったのはこの町に引っ越してきて4年目のことでした。

「セーラはあの井戸の水をまいて遊び、食事をしていたんです。病気になってからはシカゴから水を取り寄せるようになりました。怖かったので、その水で料理をし皿を洗い、歯を磨かせました」

ソウヤーさん夫妻はガンと原発との関係を証明するため、州政府からあるデータを取り寄せました。過去20年間、全住民1200万人がどんな病気にかかったかを記した記録です。

小児科医の夫ジョセフさんが分析したところ、原発周辺の地域だけが脳腫瘍や白血病が30%以上増加。中でも小児ガンは、およそ2倍に増えていました。

NHK真相:脳腫瘍・白血病30%以上増加
真相:小児ガン約2倍 増加

ソウヤーさん夫妻は全住民の徹底した健康調査を求めました。しかし国は「井戸水による被曝量は年間1マイクロシーベルトと微量で健康を脅かすことはない」と回答してきました。

「あまりに多くのものがセーラから奪われてしまいました。低線量の被曝が何をもたらすのか知ってほしいです」

<NHKのスタジオ>

室井「今のVTRはショックでしたね。基準値内だと「リスクは低い」って言い方をするんですけど・・・ガンにかからない人もいるだろうけど、セーラさんみたいにかかってしまう人もいるわけで。だから「リスクが少ない」という言い方は、逆にして言うと「リスクを背負い込む人もいる」ということですね」

鎌田「彼女の場合は具体的にどれくらいの量の被曝をしたと考えられているんですか?」

西脇「それが彼女がどれだけ被曝したのかは実はわかってないんですね。政府や電力会社は「基準以下だったので健康被害はない」として、実際の被曝量を測っていないんです

室井「そんなの、すごく分りづらいですね。子どもが病気になったとしたら、別に損害(賠償)を求めたいんじゃなくて、病気にかかる前の健康な状態に戻してもらいたいと思うけど・・・それは、かかってから言っても無理な話じゃないですか」

西脇「これはどれだけ被曝したらガンで亡くなるリスクが高くなるかということを示したグラフです。ICRPでは100ミリシーベルトでは0.5%ガンになるリスクが高くなるとしています。一見すると大したことないじゃないかと思われるかもしれませんが、例えば1万人の人がこれを浴びた場合は50人が、100万人の人が浴びた場合は5000人がガンで亡くならなくてもいい方がリスクを負ってしまうと」

鎌田「我々がいつも疑問なのは、じゃあこれ(100ミリシーベルト)より低い場合は・・・これが正しいかどうかも含めて、本当にこれでいいのかどうかわからない」

室井「しかも幼児や子どもはもっとリスクが上がるじゃないですか」

西脇「まさにそこのところはVTRで見て頂いたとおりに、内部被曝の影響とか感受性の高い子どもへの影響ということで、やはり低線量であっても影響が高いのではないかという意見もある一方で、少しずつ浴びていく場合には細胞が放射能に対して抵抗力を持つとか…そういうような理由で低いんじゃないかという意見もあってここ(低線量被曝)での意見は分かれているわけなんですね」

鎌田「意見が分かれているという現状について、ICRPは今どういうことをやろうとしている?」

西脇「そうですね。実はそのICRP自身がこの基準を見直すべきかどうか議論を進めていることがわかってきたんです」

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10月、アメリカでICRPの会議が開かれました。ICRPはおよそ30カ国250人の科学者や政府関係者でつくるネットワークです。会議の一部だけが音声での取材を許可されました。福島第一原発での事故を受けて低線量被曝のリスクの見直しを求める意見が相次ぎました

8歳や10歳の子どもがなぜ原発労働者と同じ基準なのか。福島の母親や子どもたちは心配している」
ICRPの低線量リスクがこのままでいいのか大きな疑問が持ち上がっている
(会議での発言)

ICRPは低線量のリスクをどう見直そうとしているのか、カナダのオタワにある本部に直接聞くことにしました。事務局長のクリストファー・クレメント氏です。既に作業部会を作り、議論を始めているといいます。

「問題は低線量のリスクをどうするかです」

クレメント氏は私たちに驚くべき事実を語りました。これまでICRPでは低線量の被曝のリスクは低いと見なし、半分にとどめてきたというのです。

真相ファイル:低線量のリスクを半分にしている

「低線量のリスクを半分にしていることが本当に妥当なのか議論している」

低線量のリスクをめぐる議論は、実は1980年代後半から始まっていました。基準の根拠となっていた広島・長崎の被爆者データがこの頃修正されることになったのです。それまで原爆で1000ミリシーベルトの被曝をした人は5%ガンのリスクが高まるとされてきました。それが日米の合同調査で、実際はその半分の500ミリシーベルトしか浴びていなかったことが分かったのです。半分の被曝量で同じ5%ということは、リスクは逆に2倍になります。しかしICRPは低線量では半分のまま据え置き、引き上げないことにしたのです

NHK真相:1000mSvで10%がん死リスク
真相:低線量がんリスク引き上げられず

「この問題は何度も議論されてきた。なぜ引き上げなかったのかは、私が委員になる前の事なので詳細はわからない」(クレメント氏)

なぜ低線量のリスクを引き上げなかったのか。私たちは議論に関わったICRPの元委員に取材することにしました。調べてみると、ある事実がわかりました。

当時の主要メンバーは17人。そのうち13人が核開発や原子力政策を担う官庁とその研究所の出身者だったのです。

その一人、チャールズ・マインホールド氏。アメリカ・エネルギー省で核関連施設の安全対策に当たっていた人物です。電話での交渉を重ねて、ようやく私たちの取材に応じました。

ICRP名誉委員チャールズ・マインホールド氏。1970年代から90年代半ばまでICRPの基準作りに携わってきました。

低線量のリスクを引き上げなかった背景には、原発や核関連施設への配慮があったといいます。
原発や核施設は、労働者の基準を甘くしてほしいと訴えていた。その立場はエネルギー省も同じだった。基準が厳しくなれば、各施設の運転に支障が出ないか心配していたのだ」(マインホールド氏談)

マインホールド氏は自らも作成に関わったというエネルギー省の内部文書を取り出しました。1990年、ICRPへの要望をまとめた報告書です。低線量のリスクが引き上げられれば、対策に莫大なコストがかかると試算し、懸念を示していました。

マインホールド氏はアメリカの他の委員と協力し、リスクの引き上げに強く抵抗したと言います。
アメリカの委員が低線量では逆に引き下げるべきだと主張したのだ。低線量のリスクを引き上げようとする委員に抵抗するためだった

その後ICRPは、原発などで働く労働者のために特別な基準を作ります。半分のまま据え置かれていた低線量のリスクをさらに20%引き下げ、労働者がより多くの被曝を許容できるようにしたのです。

労働者に子どもや高齢者はいないので、リスクは下げても良いと判断した。科学的根拠はなかったが、ICRPの判断で決めたのだ」(マインホールド氏談)

今アメリカでは原発や核関連施設で働いていた人たちが、相次いで健康被害を訴えています
(室内でテーブルを囲む複数の女性たち)
女性たちは核燃料の再処理施設で、長年清掃の仕事をしていました。身体に異変が起きたのは、仕事を辞めて暫く経ってからのことでした。

乳がんと喉頭がん、そして顔に皮膚がんを患っています」(元労働者)

健康への被害はないと信じて働いてきた女性たち。今国に対して補償を求める訴えを起こしています。

私たちはモルモットでした。どんなに危険かも知らされていませんでした

真相ファイル:私たちはモルモットでした

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<NHKのスタジオ>

室井「ICRPの人が出てきましたけど、「根拠がない」って。「半分に減らしても構わない」くらいなことを言ってましたけど、「根拠がない」って初めて聞いたんで驚いちゃったんですけど」

西脇「ちょっとこちらをご覧いただきたいんですけど、これは2010年のICRPの予算がどこから来ているのかを示したものなんですけども、アメリカの原子力規制委員会を筆頭に、原子力政策を担う各国の官庁から、各国政府からの寄付によって成り立っているんですね」

(画像(「ICRPの予算」)には「日本原子力研究開発機構 45,000ドル」とある。その他アメリカ、EU、ドイツ、カナダの順の出資額で総額は617,168ドル。日本は第4位。)

西脇「日本も原子力を推進する日本原子力研究開発機構が毎年それなりの額を寄付していると」

室井「ICRP自体が原発を推進したい人たちの側が作ったものだから、安全基準値を決める訳だから・・・それじゃいけないんですよね」

西脇「ICRPというと日本では科学的な情報を提供してくれるイメージがあるんですけれども、彼ら自身も繰り返し言っていたんですけども…彼らは政策的な判断をする集団だと。どこまでが許容できて許容できないのかを、政治的に判断する組織だと」

室井「ということは、自分で判断していくしかないと思うんです。しかも安全な方に。どれだけ取らないようにするか、自分で決めていった方がいいのかなと思いますね」

鎌田「低線量でも実は被害が出ているじゃないかという海外のケースをこれまで見てきたんですけれども・・・今の我々と決定的に違うのは、彼らはこういうことだと全く知らなかった訳ですね。その基準自体も曖昧だ、あるいは基準に沿っていればいいわけではないということを彼らは知らなかった。我々は少なくとも知ってるわけですから…国に対してこういうことを求めたいということがもしあるとすれば、どうですか?」

室井「正しく怖がるには、やっぱりある程度情報公開してくれないと。知らないのが怖いと思うんです。知ったら、それを基に考える事が出来るから。一番・・・情報を上げて来ないというのがよくない気がします」

鎌田「それを政府に求めたいということですね?」
室井「求めたいですね」

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原発の近くで暮らし、幼いころ脳腫瘍を患った18歳のセーラさんです。治療の後遺症で右手が麻痺し、今も思うように動かすことができません。被曝から健康を守るための基準があるのに、自分のような被害が後を絶たない事にやり切れない思いを感じています。

「科学者には、私たちが単なる統計の数値でない事を知ってほしい。
私たちは生きています。
 空気と水をきれいにしてください。
 沢山の苦しみを味わいました。誰にも同じ思いをしてほしくはありません」

日本政府は食品のさらに厳しい安全基準を新たに示し、4月から適用することにしています(注:2011年12月当時)。

「自分と同じ苦しみを誰にも味わってほしくない」
セーラさんの言葉を重く受け止めて、私たちは放射能のリスクにこれから立ち向かっていかなければならないのです。

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