10万年の安全は守れるか ~行き場なき高レベル放射性廃棄物~

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クローズアップ現代+
No.3254 2012年10月1日(月)放送
10万年の安全は守れるか ~行き場なき高レベル放射性廃棄物~

原発が生むゴミ 高レベル放射性廃棄物

先月(9月)、日本学術会議が原子力委員会に出した報告書。
高レベル放射性廃棄物の地層処分の方針を白紙に戻すべきだという重い提言でした。

原子力委員会 近藤駿介委員長
「大変、ありがたく思っています。
よく勉強させていただきます。
どうぞよろしくお願いいたします。」

現在、高レベル放射性廃棄物の多くは青森県六ヶ所村に集められています。

地層処分が行われるまでの間、この貯蔵施設で一時的に保管しています。
「オレンジ色のふたがありますが、9個ずつ(廃棄物が)入っています。
1,400個ほどがもう入っています。」

高レベル放射性廃棄物は原発で使い終わった使用済み核燃料から生まれます。
日本では使用済み核燃料を再び燃料として使用するとされていますが、その処理の過程で極めて強い放射能を持つ廃液が出てしまいます。
この廃液に高温で溶かしたガラスを混ぜステンレス製の容器に入れるとその後、固まった状態で閉じ込められます。
ガラス固化体と呼ばれる物質。
これが高レベル放射性廃棄物です。
一体、どれほどの放射能を持つのか。

発電に使われた核燃料の放射能は使用前の1億倍に増えます。
ガラス固化体にした時点で放射能は少し下がりますがそれでも人が近づけば20秒で死亡するほど危険なものです。
もとのウラン鉱石と同じレベルにまで低下するには10万年もの歳月を必要とします。
そのため日本では地下300メートルより深い地層に埋め込む地層処分という方法が国の方針となっています。

地層処分 10万年の安全は

岐阜県瑞浪市。
ここで地層処分の研究が進められています。

「地下300メートル?」

「そうですね。
ずーっと降りてきて300メートルですね。」

研究しているのは、岩盤の性質や地下水の流れ方。
これらが地層処分の安全性を決定づけるからです。
高レベル放射性廃棄物は、鋼鉄製の容器などで覆われ岩盤の中に埋められます。
年月とともに容器の腐食が進みますが漏れ出すまで1000年は耐えられるとしています。
その後、廃棄物は地下水によって運ばれる可能性があります。
しかし、岩盤の中の流れは緩やかなため地表に到達するのは数万年以降。
そのころには放射能は安全なレベルに下がっていると試算しています。
鋼鉄の容器による人工のバリアと岩盤という天然のバリア。
この2つのバリアによって、10万年の安全を確保しようというのです。
地層処分が法律で定められた根拠となったのは国の研究機関によってまとめられた地質や地下水の調査報告でした。

日本原子力研究開発機構 地層処分研究開発部門 梅木博之部門長
「あくまで日本の地質環境・条件というものを、総じて論じてあります。
結論としては日本において、地層処分という技術が適応できることを当時の技術的レベルで一般的なことですが、可能であるという結論になったということです。」

地震国日本 問われる地層処分

しかし今回、日本学術会議は地層処分を行うのは地震の多い日本では困難だと結論づけました。


日本学術会議 検討委員会 今田高俊委員長

「千年から万年、10万年先なんていうのは、責任もって大丈夫と言えるような状況ではない。」

学術会議が一つの参考としたのは、地震学を専門とする神戸大学の石橋克彦名誉教授の意見です。
それまで、地震を起こす活断層を避けて処分すれば安全としてきた国の方針に対し、石橋さんは、活断層が見つかっていない場所でも大地震は起きると主張してきました。

その根拠の一つとしたのが鳥取県西部地震です。
震度6強の大地震。
起きたのは活断層がないと考えられていた場所でした。

神戸大学 石橋克彦名誉教授
「第2次取りまとめ(1999年)の段階で日本列島の活断層は赤い線が引かれていて、地震の起こらない真っ白な土地が広大にあると言っているわけですけれども、2000年の鳥取県西部地震というのは、赤い活断層がまったく引かれていない所で、マグニチュード7.3の地震が起こってしまったわけですから。」

さらに東日本大震災から1か月後、福島県いわき市で起きた震度6弱の地震。
このとき石橋さんが指摘していた、もう一つの問題が発生していました。
地震による地下水の変動です。
地震があったその日から住宅街の真ん中で大量の地下水が湧き出てきたのです。

「毎秒4リットルぐらい。」

産業技術総合研究所 地質情報研究部門 風早康平博士
「全然終わる気配がなくて1年半経っても出続けているということになっています。」

活断層がずれたことによって地下水の道に大きな力が加わり水を地表まで一気に押し上げたと考えられています。
大きな地震が起きると岩盤という天然のバリアが機能しなくなる可能性があると石橋さんは指摘しています。

神戸大学 石橋克彦名誉教授
「今現在われわれの世代で『ここなら10万年間大丈夫です』という場所を選べるか具体的に指定できるかというとそれはできない。
一言で言えば、この日本列島で地層処分をやるというのは未来世代に多大な迷惑をかけるかもしれない、かける可能性のある非常に無責任な巨大な賭けだと思う。」

一方、地層処分を推進する国の機関は研究を進めながら安全性を追求していきたいとしています。

日本原子力研究開発機構 地層処分研究開発部門 梅木博之部門長
「今までいろいろ計算したり検討したりした経験から言えば、大きく覆ることは今のところ私はないと思います。
ただし、そこは十分に最新の知見で再度、論理構成をチェックするということになるかと思います。

原発 もう一つのリスク 高レベル放射性廃棄物
ゲスト植田和弘さん(京都大学大学院教授)

●地層処分を白紙に戻す提言

これは大変重い重要な提言と思いました。
それは、地層処分の根拠といいますか、それを推進する根拠になっていた、地震、地層処分が逆にリスクが大きいということですね。
それは一つは地震、活断層の問題、それから地下水の問題ですね、こういう2つによって、地層処分ということに対する根本的な疑念が出たんじゃないか。
だからこそ白紙に戻せということですので、これは改めて考え直さないといけない、こういう提言だと思いますね。

●“原発のゴミ”問題 なぜ置き去りに?

これはやはり、放射性廃棄物だけ特別扱いするというか、そういうことが続いてきたことが、結果的にこういうことになったと思うんですね。
実は一般の廃棄物については、1970年、公害国会のときに廃棄物処理法が出来ていますけれども、考え方としては、その廃棄物、生産をするというのは廃棄物が出るわけですが、その廃棄物をちゃんと処分できるという状況が作られないと、生産はできないんだと、こういうことだと思うんですね。
今、日本の工場で、最終的な処分の廃棄物の処分場所が決まってない工場はないと思います。
あるとしたらそれは法律違反だと、こういうことになる訳ですね。
ところが、放射性廃棄物だけは1957年に、放射性廃棄物については、原発の場所で管理すると、こういうふうにされたままで、ずっとそれがそのまま続いてきてて、それが2000年のときに、やはりあふれ出そうになるわけですから、最終処分を決めないといけないという法律が出来て、2002年から公募するというようなこともしますけれども、結果的には全く応募もないということで、ずっと放置されてきたと、こういうことかと思います。

●福島第一原子力発電所の事故で見つめざるをえなくなったのか

福島の原発事故というのは、もちろん、事故リスクの問題をね、原発の事故リスクを大きく顕在化させたと思いますが、同時に、原発という技術の持っているいろんな問題を表に出したと、その一つとして、放射性廃棄物の問題はあったと思いますね。
これは、私は廃棄物の問題を考えるときの原則なので、これは産業廃棄物に共通していると思うんですが、やっぱり何か生産するというときは、廃棄物がどうなってるかというのが、明確にならないと本当は生産してはいけないと、そういう原則が本当は確立しないといけない、適用されるべきだったと思うんですね。
でも、放射性廃棄物の問題は、やはり私たちも電気の、コンセントの向こう側のことをあまり考えないまま、電気を使ってた面がやはりあったと、そういうこともあったと思います。

どう確保する?10万年の安全

学術会議の提言の柱の一つは暫定保管という考え方です。
すぐに地層処分に踏み切らず、しばらくの間、人間の目が届く場所で管理するという方法です。

カナダで採用されている方針を参考にしました。
最初の60年は原発敷地内、または浅い地下の貯蔵施設で管理し、その間により安全な処分方法の開発とその賛否などを問う国民的な議論を行おうというものです。

その後、深い地下への地層処分をすることになっても方針変更があった場合に備え200年は廃棄物を回収できるようにしておきます。

日本学術会議 検討委員会 今田高俊委員長
「回収可能性と安全性への配慮、この2つを柱にして数十年間から数百年(保管する)。
廃棄物の処分がうまくいくように研究を続ける、そういう意味では特に無駄な期間というわけではないとわれわれは考えているんです。
今すぐ(地層処分を)やる方がリスクが高すぎるということです。」

提言のもう一つの柱は高レベル放射性廃棄物の総量管理です。
現在の原子力政策には、廃棄物の量を制限する決まりは全くありません。
これまでに、日本の原発から出された使用済み核燃料は、すでに六ヶ所村で一時保管できる容量の8倍になります。
総量管理とは、高レベル放射性廃棄物の上限を決めるべきだという考え方です。
原発を再稼働すべきかどうかなど、さまざまな原子力政策を廃棄物の量という観点から議論しようという提言です。

日本学術会議 検討委員会 船橋晴俊幹事
「総量管理というのは1つの議論のテーブルを作っていく非常に大きな促進要因になる。
原子力に対する批判の人・推進の人、一緒に議論を出来るようにするためには、総量管理という考え方を共有する、そこから生産的な論議が始まるのだろうと、そこに今回の学術会議の回答の1つの大事な論点があるわけです。」

日本学術会議の報告書を受け取った原子力委員会。
今後、その内容を検討し参考にしていきたいとしています。

原子力委員会 近藤駿介委員長
「地層処分の問題が原子力界の中で論議が閉じていた。
みなさんが技術的可能性とか問題点について十分に情報を共有していない、そこに非常に大きな問題があったことを今回の報告書は教えてくれたということだと思う。」

●学術会議は今後の対策、総量管理

これは当たり前のことだと思うんですけど、廃棄物を無限にためていくことはできないんです。
明らかに限界がある。
ですから、その総量としての限界みたいなものを明確にするというのは、おのずから現実に原発がいっぱいになってきているということもあって、合意しやすいことだと思う。
そこからあらゆるエネルギー政策の、根本の、いろんな諸問題を考えていくと、そういう提起になっているというふうに意義を感じます。

●将来のエネルギーの構成はどうあるべきか

そういう総量管理という、ある種の原則だと思うんですけれども、そういう原則をみんなの合意事項にすることができれば、そこを前提にして、共通の土俵で議論をするという可能性が開かれてくると、そういう意味での国民的議論の可能性を明確にするという、そういう趣旨も込められているというふうに思います。

●総量管理と同時に暫定保管を提言しているが

ただですね、例えば再処理をしますとか、あるいは直接処分を今すぐしますといっても、どちらも全くリアリティーがないんですね。
再処理は動いていませんし、直接処分の場所が決められるかというとそうではない。
むしろ、暫定保管という考え方は、ある種の積極的な意味を2つの点で持ってると思うんですね。
1つはやはりその暫定保管の間に、国民的議論を積み重ねて、解決の方向性を見いだそうという国民的議論のための時間を作るということでありますし、もう1つは、実際に地層処分なり、なんらかの処分をするためには、いろんな研究も必要ですし、調べないといけませんし、できれば放射能の影響なんかを、もっと小さくできるような技術とか、そういうものの開発の時間と、こういう面も持っていると思います。

●今まで向き合ってこなかった問題

結局、そういう負の遺産は、誰も受け入れたくないわけですよね。
でも、逆にいうと、みんなが受け入れざるをえないというか、考えざるをえない問題になっているということを表に出したという点が、今回の提言の持っている意味でありますし、その表に出すときに、議論の場は、どういう土俵といいますか、前提条件のようなことを作れば、そういうことが可能になるかということを提示したという意味で、大変大きな意味があると思いますね。
私たち、どうしても負の遺産をどう分配するかみたいな問題につきあわざるをえないという、ある種の覚悟を、私たち自身が持つ必要があるということを突きつけられたようにも思います。

●議論のいわば、考える柱立て

これはなかなかね、世代間の倫理公平の問題っていうのは基本的な問題の考え方の基本の一つでしょう。
みんなの間の公平、正義の正義という問題、それから、まさにそのリスクや負の遺産をどういうふうに分かち合うというような言い方もできるかと思うんですが、その分配するのかというようなことを考えざるをえなくなったと、こういうことだと思います。
最初の出発点だと、こういうふうに思う次第です。

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