子どもからの問い「政府の人が心から『福島の子は大丈夫』と思っているのか、知りたいです

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東京新聞の写真:「政府の人が心から福島の子は大丈夫と思っているのか知りたいです」

原発事故から6年、いま 問われていること

放射能から子どもを守る企業と市民のネットワーク代表 中村隆市

 

政府の人が心から『福島の子は大丈夫』と思っているのか知りたいです」という子どもの問いには、それを知りたいというだけでなく「子どもを守ってほしい」という願いが込められているのではないでしょうか。この問いに「政府の人」は答えていません。
この問いに込められた願いは「日本の大人たち全員」に受けとめてほしいのではないでしょうか。

 

福島原発事故が起こって丸6年になりました。
今、放射能汚染地では、甲状腺がんだけでなく様々な病気が増え始めています。その具体例をお伝えする前に、私個人がチェルノブイリ医療支援に関わった経験をお伝えしたいと思います。
今から31年前の1986年にチェルノブイリ原発事故が起こりました。その4年後から医療支援に関わり始めた私は、1992年に初めてベラルーシを訪問しました。現地に行く前の私は、原発事故から6年8ヵ月も過ぎていたので、病気のピークは過ぎているだろうと思っていました。
しかし、実際には病気が増え続けていました。その後、毎年のようにベラルーシやウクライナに薬や医療機器を届けに行き、放射能で汚染されていない地域に「保養所」をつくったり、 移動検診車を贈呈して「早期診断治療システム」をつくるサポートなどをしてきました。
なぜ、早期診断が必要だったのか?
それは、子どもたちの甲状腺がんは「転移」が早く、リンパ節への転移が3人に2人、肺への転移が6人に1人の割合で起きていたからです。(今、日本でも甲状腺がんの転移が増えてきています)
チェルノブイリ「風下汚染地」の病院と汚染地の村や町をまわって分かったことは、原発事故による健康被害は想像を超える規模で、長く続くということでした。汚染地の子ども病院でもらったデータによれば、原発事故の前年と事故から8年後を比べると、急性白血病が2.4倍、ぜんそく2.7倍、糖尿病2.9倍、血液の病気3.0倍、先天性障害5.7倍、ガンが11.7倍、そして、消化器系の病気が20.9倍にも増えていました。(これらの病気の半分以上は、福島でも増えています)

 

モズイリ子ども病院のデータ

(ベラルーシ・ゴメリ州の子ども病院のデータ:1985年~1994年)

複数の慢性病を抱えている子どもが多く、免疫力が低下しているため病気にかかりやすく重症度が高くなるという話、若い世代も含めて「老化が早い」という話、そして「この村には、健康な子どもはほとんどいません」という話を何度も聞きました。

病気に苦しむ子どもたちに会うたびに「どうして、こんなに多くの子どもたちが病気になったのか」、「どうしてこの国の政府は、原発事故の真実を住民に知らせず、『チェルノブイリ法』ができるまで5年間も、まともな対策を取らずに被ばくさせ続けたのか。 なんてひどい政府なのか」という思いを抱きました。

そんな経験をしてきた者として、福島原発事故のあと、最も被害を受ける子どもたちを政府が守ろうとしていないことに強い憤りを感じてきました。そして今、はっきりと分かったのは、チェルノブイリ原発事故の時よりも「日本政府の方が、国民の命を軽視している」ということです。
原発事故で汚染されたウクライナ、ベラルーシ、ロシアの各共和国では、原発事故から5年後には、被ばく線量を減らし、市民の健康と暮らしを守るための法律 「チェルノブイリ法」を制定し、施行されました。年間1ミリシーベルト以上に汚染された地域には「移住の権利」が与えられ(5ミリシーベルト以上には「移住の義務」がある)年間1ミリシーベルトを超える地域は補償の対象となり、無料で検診が受けられ、薬代の無料化、非汚染食料の配給、「非汚染地の保養所」への旅行券が支給されるなど様々な補償があり、移住をする人には、移住先での雇用を探し、住居も提供、引越し費用や移住によって失う財産補償なども行われました。

 

ところが、この日本では、福島原発事故から6年経っても1ミリシーベルト以上の汚染地に「移住の権利」がないため、避難した人々を「勝手に避難した自主避難者」と位置づけ、「最後の命綱」とも言われている「住宅の無償提供」すら今月(3月)末で打ち切ろうとしています。原発事故を起こした責任があり、「加害者」の立場にある国が「年間20ミリシーベルト以下は、健康影響がない」と勝手に決めて、避難していた住民を汚染地に戻す政策を取り続けています。

 

福島民報:20ミリ以下、健康影響なし

この「20ミリシーベルト基準」が異常だということは誰にでも分かります。

そもそも原発事故前の基準は、年間1ミリシーベルトでした。

日赤の「原子力災害時の医療救護の活動指針」には「救護活動中の累積被ばく線量は、1 ミリシーベルトを超えない範囲とします。」「作成に当たっては、国際放射線防護委員会(ICRP)が一般市民に対する1年間の実効線量限度の勧告に準拠することとしました」と明記されています。

病院のレントゲン室など「年間5.2ミリシーベルト以上」被ばくする場所は、放射線管理区域とされます。18歳未満の就労が禁止され、飲食も寝ることも禁止されます。

1950年代半ば、イギリスのアリス・スチュワート博士は10歳未満の子どものガンや白血病が急増した原因を研究し、お母さんたちが妊娠中にエックス線を浴びたことをつきとめました。博士が発見したのは、数回のエックス線照射でガン発生率が倍増することです。また、妊娠3ヶ月未満にエックス線を浴びたお母さんの子どもは、ほかのお母さんの子どもより10〜15倍ガンの発生率が高かったのです。

エックス線照射数とガン発症比(アリス・スチュアート)

 

 

原発で働く作業員が白血病になった場合の「労災認定基準」は、年5ミリシーベルト以上の被ばくです。(累計5.2ミリシーベルトで労災が認定されています

 

NHK:原発事故作業員 白血病の労災認定

 

2011年4月(原発事故が起こった翌月)当時、内閣官房参与だった小佐古敏荘東大教授(放射線安全学)が辞表を提出しました。学校の放射線基準を年間1ミリシーベルトとするよう主張したのに採用されず、「年間20ミリシーベルト近い被ばくをする人は原子力発電所の放射線業務従事者でも極めて少ない。この数値を乳児、幼児、小学生に求めることは学問上の見地からのみならず、私のヒューマニズムからしても受け入れがたい」「容認すれば私の学者生命は終わり」「自分の子どもをそういう目に遭わせたくない」と涙を流しながら抗議の辞任をしました。

小佐古敏荘「小学生に20ミリSvは、私には許すことができません」

 

こうした問題について、国連人権理事会の特別報告者、アナンド・グローバー氏の報告書が重要な指摘をしています。

 

福島第1原発事故:国連報告書「福島県健康調査は不十分」

(毎日新聞 2013年5月24日)から抜粋

 

東京電力福島第1原発事故による被ばく問題を調査していた国連人権理事会の特別報告者、アナンド・グローバー氏の報告書が24日明らかになった。福島県が実施する県民健康管理調査は不十分として、内部被ばく検査を拡大するよう勧告。被ばく線量が年間1ミリシーベルトを上回る地域は福島以外でも政府が主体になって健康調査をするよう求めるなど、政府や福島県に厳しい内容になっている。近く人権理事会に報告される。

 

報告書は、県民健康管理調査で子供の甲状腺検査以外に内部被ばく検査をしていない点を問題視。白血病などの発症も想定して尿検査や血液検査を実施するよう求めた。甲状腺検査についても、画像データやリポートを保護者に渡さず、煩雑な情報開示請求を要求している現状を改めるよう求めている。

 

また、一般住民の被ばく基準について、現在の法令が定める年間1ミリシーベルトの限度を守り、それ以上の被ばくをする可能性がある地域では住民の健康調査をするよう政府に要求。国が年間20ミリシーベルトを避難基準としている点に触れ、「人権に基づき1ミリシーベルト以下に抑えるべきだ」と指摘した。

 

このほか、事故で避難した子供たちの健康や生活を支援する「子ども・被災者生活支援法」が昨年6月に成立したにもかかわらず、いまだに支援の中身や対象地域などが決まっていない現状を懸念。「年間1ミリシーベルトを超える地域について、避難に伴う住居や教育、医療などを支援すべきだ」と求めている。

 

「低線量被ばく 考慮を」 国連人権理事会で勧告 グローバー氏

(2014年3月21日 東京新聞)から抜粋
国連人権理事会で福島原発事故の健康被害に関する勧告を日本政府に出したアナンド・グローバー氏が20日、東京都内で講演し、低線量被ばくの影響を依然として軽視する政府の姿勢を批判。福島県以外の地域でも健康管理調査を行うよう求めた。

 

東京新聞:国連人権理事会で勧告 グローバー氏-「低線量被ばく-考慮を」 日本政府の対応批判

 

チェルノブイリ法の「避難の権利」基準(1~5ミリシーベルト)と「移住の義務」基準(5ミリシーベルト以上)を日本の汚染地図に当てはめると以下のようになります。

ウクライナ基準 移住権利&義務ゾーン 東日本汚染地図(トリミング).

 

福島の帰還基準、避難者増を恐れて強化せず 民主政権時

 

こうした非人道的な政策の中で、原発事故から6年が経ち、さまざまな病気が増えてきています。

◆福島県では小児甲状腺がんが激増している

甲状腺がん+がん疑い 推移

(2016年9月末現在、福島県の原発事故当時18歳以下の甲状腺がん)

 

また、福島原発事故後、甲状腺がんと診断された子どもたちを支援している市民団体「3・11甲状腺がん子ども基金」が、昨年12月から療養費の給付を開始し、2月末までに66人に給付しましたが、その中には福島県外在住者が16人含まれており、その多くは甲状腺に違和感を感じて病院に行き甲状腺がんが判明していますが、その多くは甲状腺を「全摘」しています。

 

県外に重症患者が多い傾向

スクリーニング検査をして早期で見つかる福島県内の小児甲状腺がんは8割が甲状腺を片方だけ摘出する「半摘」でしたが、福島県外では、がんが進行してから見つかる子どもが多く8割が両方摘出する「全摘」でした。(全摘すると一生ホルモン剤を飲み続ける必要があります)またリンパ節転移についても、福島県内では7~8割ですが、県外では9割が転移していました。また、肺への転移も66人中9人に見つかっています。こうしたことからもスクリーニング検査の重要性が分かります。

 

3・11甲状腺がん子ども基金
http://www.311kikin.org

 

チェルノブイリでは、年2回ほど甲状腺の検査していましたが、日本では「20歳まで2年に1回」であり(空白期間に発症している例も出てきています)それ以降は「5年に1回実施予定」としています。しかも福島県以外では、こうした公的な検診をほどんど行なっていません。少なくとも年間1ミリシーベルト以上被ばくする汚染地では、福島県外も含めて毎年検診する必要があります。

 

福島県民健康調査の報告で心配なのが、下表右側の「のう胞」が年ごとに増えていることです。

36.2% → 44.7% → 55.9% → 57.7% → 61.6%

 

甲状腺 結節 のう胞 の割合(横短) 2011-2015推移

 

 

◆大人の甲状腺がんも増えている

大人にも甲状腺がんの患者が増えています。

 

福島県の主要病院における「甲状腺がんの手術数」

福島県の主要病院の甲状腺がん手術数

*データソース
http://www.senmon-i.com/dpc/100020.html?ken_no=7&target=3

http://caloo.jp/dpc/disease/1116/07#achievement

 

 

東北 小児甲状腺がん 罹患率(2011~2014)

※原発事故前年の2010年度の厚生労働省統計にデータが不明の月(3~5月)があるため2011年度から集計しています。(なぜデータがないのか解明する必要があります)

 

関東 甲状腺がん 罹患率 (2011~2014)

 

 

九州 小児甲状腺がん 罹患率(2011~2014)

(大分県には、甲状腺がん治療実績で全国2位の野口病院がある)

 

小児甲状腺がん 罹患率 九州、関東、東北 (2011~2014年)

甲状腺がんの発症傾向として、福島県を中心に東北、関東の発症率が高くなっており、九州はあまり増加していません。

 

全国で増える「甲状腺の悪性腫瘍」患者

甲状腺の悪性腫瘍患者数(病院別)

2017.2.26 サンデー毎日より)

◆全国統計でも小児甲状腺がんが増えている

子どもの甲状腺がんの中でも0歳~4歳は、2009~2012年度まで1人もいませんでした。

5歳~9歳も原発事故前の2009~2010年度は1人もいませんでしたが、2011年度と2012年度は3人ずつ発症し、10歳以上でも大幅に増えてきています。気になるのは、罹患数の発表が遅いことです。

小児甲状腺がん 年齢階級別 全国罹患数 (2009~2012年)

 

心臓病も明らかに増加しています。

 

心臓弁膜症の年次推移(全国と福島)

全国と福島の2011年を基準にして、心臓弁膜症の増加傾向をグラフにしています。

(後日、詳しい数字もアップします)

◆死亡率が増加している

死亡率のデータはすべて政府統計です。

全国の慢性リウマチ性心疾患は、原発事故の翌年だけ増加し、その後は減少していますが、福島県は原発事故の翌年から急増し続けています。

 

慢性心疾患死亡率

2015年 慢性リウマチ性心疾患 死亡率 福島がワースト1

(左端が全国平均、8番目が福島県)

 

慢性非リウマチ性心内膜疾患

さまざまな病気が福島で増えてきています。

全国と福島の悪性新生物(がん)の増加傾向です。

 

がん死亡率 全国&福島 年次推移

 

結腸がんによる死亡率 年次推移 全国&福島

 

神経系の病気も増えてきています。

 

神経系の疾患 死亡率 年次推移

分類されない症状で亡くなる人も増えています。

 

症状、徴候及び異常臨床所見・異常検査所見で他に分類されないもの 

 

2015年 急性心筋梗塞  死亡率  福島がワースト1

(左端が全国平均、8番目が福島県)

 

福島県南相馬市の看板

 

南相馬市カンバン「長時間の滞留はご遠慮ください!」0.23マイクロシーベルトを超える所があります。

 

南相馬 20ミリシーベルトでは、いのちを守れない

 

ふくしま集団疎開裁判 1mSv以下の環境で教育を!

 

福島の方を中心に心ある皆さんは、この6年間、子どもを守るために全精力を傾けて、さまざまな「できること」を続けてこられました。(そのために体調を崩された方も多数おられます)しかし、未だに政府には「子どもを守ろうとする姿勢」がありません。

 

ベラルーシ科学アカデミーのミハイル・マリコ博士はこう言っています。

 

「チェルノブイリの防護基準、年間1ミリシーベルトは、市民の声で実現されました。核事故の歴史は、関係者が事故を小さく見せようと放射線防護を軽視し、悲劇が繰り返された歴史です。チェルノブイリではソ連政府が決め、IAEAとWHOも賛同した緩い防護基準を市民が結束して事故5年後に、平常時の防護基準、年間1ミリシーベルトに見直させました。それでも遅れた分だけ悲劇が深刻になりました。フクシマでも早急な防護基準の見直しが必要です」

 

東京新聞の写真:「政府の人が心から福島の子は大丈夫と思っているのか知りたいです」

 

 

 

 

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