29年前の今日(1986年4月26日)チェルノブイリ原発で事故が起こりました。その後、放射能汚染地に病気が増えてきたため、ウクライナ、ベラルーシ、ロシアでは、原発事故から5年後の1991年に被ばく線量を減らすための法律 「チェルノブイリ法」を制定しました。年間1ミリシーベルト以上に汚染された地域には「移住の権利」が与えられ、5ミリシーベルト以上の地域は「移住の義務」があり、住むことができません。年間1ミリシーベルトを超える地域は賠償や補償の対象となり、無料で検診が受けられ、薬代の無料化、公共料金の免除、 非汚染食料の配給、学校給食の無料化、症状に合わせた「保養所」の旅行券が支給されるなど様々な賠償や補償があり、移住をする人には、移住先での雇用を探し、住居も提供、引越し費用や移住によって失う財産補償なども行われています。
ところが日本では、福島原発事故から4年が過ぎても、1ミリシーベルト以上の汚染地に「移住の権利」がないだけでなく、「20ミリシーベルトまで安全」だとして、避難していた住民を汚染地に戻す政策をとっています(具体的には、税の減免や東電からの賠償支払いが打ち切られるため、家計の負担が大きくなって避難の継続が難しくなる)。そうした政府の横暴に対して、「特定避難勧奨地点」に指定されていた福島県南相馬市の住民ら約530人が今月17日、「まだ安全と言えないのに国が指定を解除したのは不当」として、国に解除取り消しと慰謝料を求める訴訟を起こしました。
◆福島県で、甲状腺がんや心臓病などが明らかに増加している
通常、子どもの甲状腺がんは、100万人に1~2人。未成年の甲状腺がん年間発生率も100万人に2~3人とされていました。原発事故前の2008年、国立がんセンターの統計によれば、福島における小児甲状腺がんの発症はゼロでした。(ドキュメンタリー映画『小さき声のカノン』)
2006年の統計で、甲状腺がんと診断された20歳未満の人は、<全国で46人>でした。これは<未成年2250万人に46人>であり <100万人に2人>ということになりますが、2014年の福島県では<37万人に61人>も甲状腺がんと診断されています。
日本の人口の1.5%ほどの福島県で、通常の全国の発生数よりも多い61人が甲状腺がんになっているという異常な増加です。原発事故当時 0歳から18歳までの子どもたちは、この3年間で87人が甲状腺がんとなり、「がんの疑い」の30人を加えると117人になっています。
3年間の子どもの甲状腺検査結果を見て心配なのは、福島原発事故の後、甲状腺がんが増えただけではなく、がんになる可能性がある結節やのう胞が年ごとに増加していることです。
5ミリ以上の結節(しこり)がある人が、0.5% → 0.7% → 0.9% と1.8倍に急増し、のう胞がある人も、36.2% → 44.7% → 55.9%に増加。精密検査が必要な子どもは1.8倍になっています。
子どもの甲状腺がんで特に心配なことは、転移が早いということです。福島県の県民健康調査「甲状腺検査評価部会」(平成26年11月11日)の資料によると、福島県立医大で手術した甲状腺がん54例のうちリンパ節転移は74%(40例)甲状腺外浸潤が37%(20例)低分化がん4%(2例)と報告されています。 また、鈴木真一教授が日本癌治療学会で、「8割超の45人は腫瘍の大きさが10ミリ超かリンパ節や他の臓器への転移などがあり、2人が肺にがんが転移していた」と報告しています。
チェルノブイリ原発事故で大きな被害を受けたベラルーシの国立甲状腺がんセンターの統計でも15歳未満は3人に2人がリンパ節に転移し、6人に1人が肺に転移しており、同様のことが福島でも起こっています。
医療支援でベラルーシを何度も訪問するなかで私は、原発事故の被害者などが孤立せずに働くための「福祉工房」をつくったナターシャさんという女性に出会いました。彼女は、2人の子どもをガンで亡くしていますが、息子さんは9歳で被ばくし、甲状腺がんが肺に転移して21歳で亡くなっています。娘さんも胃ガンが全身に転移して亡くなっています。
こうした事実を踏まえるなら、放射能汚染地の未成年の甲状腺検査は2年に1回ではなく、ベラルーシのように年に2回以上か、少なくとも毎年健診を行う必要があります。また、原発事故当時19歳以上の人たちと福島県外の汚染地での健診も早急に開始する必要があります。(チェルノブイリ法では、年1ミリシーベルトを超える地域は補償の対象となり、年齢に関係なく誰もが無料で検診を受けられます)
こうした健診の拡充について、国連人権理事会の特別報告者、アナンド・グローバー氏の報告書が重要な指摘をしています。
(以下、2013年5月24日 毎日新聞から抜粋)
報告書は、県民健康管理調査で子供の甲状腺検査以外に内部被ばく検査をしていない点を問題視。白血病などの発症も想定して尿検査や血液検査を実施するよう求めた。甲状腺検査についても、画像データやリポートを保護者に渡さず、煩雑な情報開示請求を要求している現状を改めるよう求めている。また、一般住民の被ばく基準について、現在の法令が定める年間1ミリシーベルトの限度を守り、それ以上の被ばくをする可能性がある地域では住民の健康調査をするよう政府に要求。国が年間20ミリシーベルトを避難基準としている点に触れ、「人権に基づき1ミリシーベルト以下に抑えるべきだ」と指摘した。
こうした重要な指摘に日本政府は、ほとんど応えていません。そして、この人命を左右する重大なことが一部のメディアでしか報道されず、国民の大半は知らないままです。
(左記事、2012年11月29日 東京新聞) (右記事、2014年3月21日 東京新聞)
福島で増えている病気は、甲状腺がんだけではありません。
チェルノブイリで増えた病気が、福島県でも増えてきています。
◆セシウムは、さまざまな臓器に蓄積する
ベラルーシのデータ でセシウムがたくさん蓄積している甲状腺、心臓、脳、腎臓の病気は、福島でも増えてきています。(甲状腺に影響を与えるのは放射性ヨウ素だけでありません。セシウムは、様々な臓器に蓄積して放射線を浴びせ続けます)
(元ゴメリ医科大学学長 ユーリ・バンダジェフスキー博士のデータから)
◆福島県と全国平均との比較
【福島の心臓病死亡率が全国平均より1.5倍以上高い病気】
政府が発表している2009~2013年の人口動態統計で、全国平均より福島の死亡率が目立って高い病気は、チェルノブイリと同様に最も急増しているのが、セシウムが蓄積しやすい心臓の病気で、急性心筋梗塞の死亡率が全国平均の2.40倍、慢性リウマチ性心疾患の死亡率が全国平均の2.53倍、どちらも全国1位になっています。(これらの数字は、病気の発生率ではなく死亡率です)データソース
原発事故以前から数値が高いのを見て思い出すのは、原発周辺では事故を起こさなくても白血病やがんが多いというドイツ政府の発表と福島には原発が10基もあったこと、そして、2011年の原発事故前から「小さな事故」が多発していたことです。多くの事故が隠ぺいされてきましたが、特に、1978年11月2日に福島第1原発3号機で起きた臨界事故は「日本で起きた最初の臨界事故」とされていますが、発生から29年間も隠蔽されました。
下の表は、原発事故の後に死者が急増した病気が分かりやすくまとめられています。
(データは宝島から拝借 クリックすると画像が拡大できます)
死亡数でも上記のように増加していますが、それ以上に病院での治療数や手術数が急増しています。
◆「福島県立医大で治療数・手術数が増えている病気」
様々な病気が増えていますが、2倍以上に増えている 病気を一部紹介します。(グラフ)
これらの病気の多くは、福島県全体で増えており、周辺の県でも増えています。
※倍率は、2010年(H22年)と2012年(H24年)の比較
<福島県立医大での治療数と増加倍率>
*白内障、水晶体の疾患 (150→344→340)2.3倍
*膀胱腫瘍(66→79→138)2.1倍
*前立腺の悪性腫瘍(77→156→231)3倍
*弁膜症(35→54→103)2.9倍 ※心臓弁膜症
*静脈・リンパ管疾患(11→43→55)5倍
*小腸の悪性腫瘍、腹膜の悪性腫瘍(13→36→52)4倍
*直腸肛門(直腸・S状結腸から肛門)の悪性腫瘍(31→60→92)3倍
*胆のう、肝外胆管の悪性腫瘍 (32→94→115)3.6倍
*骨軟部の悪性腫瘍(脊髄を除く)(13→41→77)5.9倍
*扁桃周囲膿瘍、急性扁桃炎、急性咽頭喉頭炎(11→11→52)4.7倍
↓
◆甲状腺に近い「扁桃周囲膿瘍、急性扁桃炎、急性咽頭喉頭炎」は、福島県全体と周辺県でも急増しています。この病気の治療数・手術数の合計で、福島県の病院が全国ランキングの15位までに3つも入っています。(DPC対象病院)
福島・太田総合病院付属西ノ内病院(59→81→189)3.2倍 全国3位
福島・白河厚生総合病院 (28→48→155)5.5倍 全国8位
福島・大原綜合病院 (29→43→138)4.8倍 全国14位
★栃木県でも激増しています。(倍率は、2010年と2012年の比較)
栃木県・獨協医大(10→22→75)7.5倍
栃木県・済生会宇都宮病院(10→12→81)8.1倍
栃木県・栃木医療センター(14→84→132)9.4倍
日本もできるだけ早く 「日本版のチェルノブイリ法」をつくって、被ばく量を年間1ミリシーベルト以下に軽減させる必要があります。
◆東京電力福島第一原発事故の前から存在している法律
*法律で定められた一般市民の被ばく限度は「年1ミリシーベルト」(放射線障害防止法)
*病院のレントゲン室などの放射線管理区域は「年5.2ミリシーベルト」(放射線障害防止法)
放射線管理区域では、18歳未満の就労が禁止され、飲食も禁止されている。
*原発等の労働者がガンや白血病で亡くなった場合の労災認定基準は、年5ミリシーベルト以上
日本赤十字社は、原子力災害時の医療救護の活動指針として、「累積被ばく線量が1ミリシーベルトを超える恐れがあれば、退避する」としています。
ロシア科学アカデミー会員で、報告書『チェルノブイリ―大惨事が人びとと環境におよぼした影響』(日本語訳書『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』岩波書店 2013年発行)をまとめたアレクセイ・ヤブロコフ博士はこう言っています。「偽りのないデータというのは、1キュリー/平方キロメートル(年約1ミリシーベルト)以上に住むすべての人々に何らかの健康被害が出ていることです。5キュリー(5ミリシーベルト)に住む人は、さらに被害が増大します。健康被害は汚染レベルが高くなるにつれ明確に増大します」
2011年4月に内閣官房参与の小佐古敏荘・東大教授(放射線安全学)は、年間20ミリシーベルトを基準に決めたことに、「容認すれば私の学者生命は終わり。自分の子どもをそういう目に遭わせたくない」と抗議の辞任をしました。会見では「年間20ミリシーベルト近い被ばくをする人は、原子力発電所の放射線業務従事者でも極めて少ない。この数値を乳児、幼児、小学生に求めることは学問上の見地からのみならず、私のヒューマニズムからしても受け入れがたい」 と涙ながらに発言しました。
日本政府は、原発事故のあと「年20ミリシーベルト以下は健康影響なし」と言い続けていますが、20ミリシーベルトの4分の1(5ミリシーベルト)以下の汚染地に住み続けた人びとの健康被害を取材したNHKの重要な報道番組があります。
第2回 ウクライナは訴える(2012年9月23日 NHK ETV特集)から抜粋と補足
チェ ルノブイリ原発事故の25年後に公表された「ウクライナ政府報告書」は、年間0.5~5ミリシーベルトの汚染地帯に住む人々に深刻な健康被害が 生じていることを明らかにしました。(低線量汚染地の住民には)心臓疾患やリウマチ性疾患など、さまざまな病気が多発し、特に心筋梗塞や狭心症など心臓や血管の病気が増加しています。
ウクライナ政府報告書は、汚染地帯の住民など被曝した人から生まれた32万人を調べ、健康状態を報告しています。1992年、子どもの22%が健康でした。ところが2008年、それが6%に減少しました。逆に慢性疾患を持つ子どもは20%から78%に増加しました。
『低線量汚染地域からの報告書―チェルノブイリ26年後の健康被害』 という本が、番組制作に関わった馬場朝子氏と山内太郎氏によって詳しく まとめられて、NHK出版から発行されています。 東北、関東に広がる「低線量汚染地域」のこれからを考える上で非常に重要な本です。その一部を抜粋・要約します。
<チェ ルノブイリ原発から140キロの距離にあるジトーミル州のコロステン市は移住勧告地域と放射線管理地域が混在する低線量汚染地域で、年間 0.5~5ミリシーベルトの被曝線量が見込まれる地域である。コロステン中央病院の副院長アレクセイ・ザイエツ医師 「残念なことに、日本でも1年前に原発事故が起きました。多くの点が、私たちの悲劇的な事故と共通していると思います。今の日本の状況は、私たちの事故と同じであり、私たちに起きたことが福島でも起きているのです。 」
内分泌科医のガリーナ・イワーノブナさん「事故当時18歳以下の子どもたちを3か月ごとに検査をしています。彼らの多くは甲状腺疾患を患っており、自己免疫性甲状腺炎や、びまん性甲状腺腫の人もいます。事故当時、少年だった彼らは、いまや大人となり、自分たちの子どもをもうけています。その生まれた子どもたちにも、多くの甲状腺疾患が見られるのです。」
リウマチ疾患が専門ガリーナ・ミハイロブナ医師 「チェルノブイリ事故前はリウマチ患者は6人だったのに、2004年には22人、2010年には42人、2011年は45人でした。こういった症状は、チェルノブイリ事故当日、若年層だった人たちに見られます」
ウラジーミル・レオニードビッチ医師 「リンパ腫と白血病という血液の病気も増えています。事故前の6年で、血液の病気は26症例(年平均4.3例)が記録されていますが、事故後は25年間で255症例(年平均10.2例)となっています。」
ガリーナ・ミハイロブナ医師 「被ばくした両親から、障害を持って生まれる子どもがいます。例えば、2009年は 先天性障害が身体障害全体の47パーセントを占めています。今年(2012年)第一四半期においては身体障害者の100パーセントが先天性障害です。先天性障害は、主に心臓循環器系疾患、腸、目などに確認されています。2005年から心臓の先天性障害が第1位で、現在もそれは変わりません」
<セシウムによる被曝に限れば、コロステンにいた人の被曝量は25年間の積算で15から26の間、だいたい20ミリシーベルト前後と見積もっていいだろう。このデータからも、年間被曝線量が1ミリシーベルト前後だという数字が導き出される>
◆ベラルーシ科学アカデミーのミハイル・マリコ博士の言葉に、謙虚に耳を傾けたいと思います。
「チェ ルノブイリの防護基準、年間1ミリシーベルトは、市民の声で実現されました。核事故の歴史は、関係者が事故を小さく 見せようと放射線防護を軽視し、悲劇が繰り返された歴史です。チェルノブイリではソ連政府が決め、IAEAとWHOも賛同した緩い防護基準を市民が結束し て事故5年後に、平常時の防護基準、年間1ミリシーベルトに見直させました。それでも遅れた分だけ悲劇が深刻になりました。フクシマでも早急な防護基準の 見直しが必要です」
◆みんなで子どもたちを守ろう
(「100万人の母たち七夕プロジェクト」にて 亀山ののこ撮影)
「これ以上、子どもたちを被ばくさせてはならない」 と思われた皆さん
「このままでは、子どもたちの健康や生命が守れない」と思われた皆さん
地震大国に原発を54基もつくり、原発事故を起こした大人の責任として
子どもたちを皆で守りましょう!
放射能から子どもを守る企業と市民のネットワーク(ほうきネット)では
以下の取り組みを進めます。
◆医療支援と被ばく軽減の支援
1、健診の拡充
*福島県外の1ミリシーベルト以上の汚染地でも事故当時19歳以上の人も甲状腺検査を行う。
*移動健診のためのポータブルエコー(超音波診断装置)の購入
健診を受けやすいように医師がエコーを持って動く。(すでに福島の医師から要望が届いています)
2、被ばくを減らす活動
*保養の拡充(夏休みや春休みに全国で取り組まれているが、多くの団体が資金不足に苦しんでいます)
*子ども留学・疎開(家族みんなで避難はできないが、子どもだけでも避難させたい方を対象に)まつもと子ども留学など
*移住のサポート(移住を希望される方のサポート)
3、子どもたちを放射能から守るために重要な情報を集め、広める
*マスコミが報道しない重要な情報を広く一般に伝えていく(メディアの役割も担っていく)
*こうした問題を語り合う場を全国につくっていく
*『小さき声のカノン』のような優れた映画の上映会を全国各地で開催する
4、その他、子どもを守るために必要なことを随時、行っていく
今、 福島のお医者さんから「甲状腺の検査を受けていない子どもたちや19歳以上の若者たちの検査を早くしてあげたい。移動健診ができるポータブルエコー(持ち 運びできる超音波診断装置)があれば、甲状腺健診の資格を得た私たちが健診することができる。福島県外でも健診できるので、ぜひ援助してほしい」という要請が届いているので、まず最初にポータブルエコーの代金を集めることから始めています。福島県のお医者さんを中心としたこの取り組みは、エコーなど医療機器の代金と健診のための諸費用を加えて、700万円を目標に取り組みが始まりましたが、あと300万円ほどで健診が始められるところまできています。皆さんのご支援とご協力をお願いします。(寄付はこちらへ )
チェルノブイリ原発事故から29年経った 2015年4月26日
放射能から子どもを守る企業と市民のネットワーク
(ほうきネット)代表
中村隆市
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