原発は事故を起こさなくても様々な問題をひき起こしています。
事故が起こらなくても原発をやめなければならない理由は、たくさんあります。ドイツの再生可能エネルギーの町として有名なシェーナウの人たちは、原発に反対する100 の理由をまとめて本にしていますが、今日は、私たち(放射能から子どもを守る企業と市民のネットワーク)が「原発はやめるべきだと考える特に大きな問題」をお伝えしたいと思います。
ウラン鉱山による自然破壊と環境汚染
原発は、燃料のウランを掘り出すところから自然を破壊し、環境を放射性物質で汚染しています。放射能の怖さを知らされていないウラン鉱山労働者には肺がんが多発し、その子どもたちにも病気が多くなっています。
さらに、ウラン鉱山からの廃液やウラン鉱石を掘り出した後の精錬や濃縮といった核燃料に加工する工程でも放射能汚染が広がって、周辺住民にさまざまなガンや白血病、先天性異常などが多発しています。ウラン鉱山の多くは先住民が住む地域にあり、カナダやアメリカ、オーストラリア、インド、アフリカなど世界各地で健康被害が広がり、その賠償やウラン採掘の中止を訴えています。
原発というものは、ウランを掘るところから始まって、原発の稼働、そして最後の「放射性廃棄物」の「最終処分」に至るまで、さまざまな差別の上に成り立っていて、生態系と人々の健康を害しています。
原発が稼働し始めると
原発は事故を起こさなくても
日常的に様々な問題を起こしている
原発は日常的に放射性物質を空や海に放出しているため、原発周辺の住民に健康被害が出ています。
原発の周辺では
2007年にドイツ環境省と連邦放射線防護庁は、原発周辺5km圏内に住んでいる5歳以下の子どもは、小児がんの発症が全国平均の1.61倍、小児白血病は2.19倍という疫学調査の結果を公表しています。フランスや米国、韓国の研究所でも疫学調査が行われ、いずれの調査でも原発に近いエリアほど病気が増えていると報告されています。
アメリカでは「原発が止まって乳児死亡率が54%減少した」という報告もあります。つまり、原発が稼働しているときは、赤ん坊がたくさん亡くなっていたということです。そして、日本でも年々増加している乳がんに関する疫学調査で、原発が多い地域と乳がん死亡者が増加している地域が重なっているという重要な報告があります。
下の図は、統計学者のJ.M.グールドがマッピングした調査結果で、色の黒い部分は乳がん死亡者が増加している地域
High Risk Counties Within 100 Miles of Nuclear Reactors
グールドはこの分布結果に、ある法則性が存在することに気づいた。それは次の図を見て頂ければ一目瞭然である。
上図は、全米に設置されている原子力発電所104箇所の所在マップである。
韓国では原発の周辺で甲状腺がんが多発していて(原発から5km以内の女性住民の甲状腺がん発生率は一般の2.5倍も高い)甲状腺がんになった女性が裁判を起こして勝訴し、甲状腺がんの発症に対する責任が原発にあるという判決が出ています。
海の生態系
原発が稼働するとすごく高温になるため、海水を吸い上げて原子炉を冷やし、その結果7℃も熱くなった海水をまた海に戻すのですが、海の生き物にとって7℃温度が上がるというのは大変なことです。地上にいる我々にとっても気温が7℃上昇するというのは大問題ですが、海水温が1℃上昇するというのは気温の3~4倍の影響を海の生物に与えるのに等しいそうです。しかもその温排水の量が驚くほど大量で、原発1基で1秒間に70トンもの温排水を海に放出します。
原発事故以前は、日本にあった54基の原発全体から1年間に放出される温排水の量は1000億トン(日本全土に降る雨の総量が年間6500億トンで、そのうち河川に流れるのは4000億トン)。つまり原発は、日本の川から海に流れる水量の4分の1に相当する量を7℃温めて海に戻しているのです。そして、電力会社は決められた基準も守れないことが多く、温度データの改ざんを繰り返し行ってきました。
もう一つ重要なのが、海水を吸い上げる時に一緒にプランクトンや魚の卵、稚魚などの生き物を吸い上げてその多くが死んでしまうという問題です。この問題もあまり報道されていませんが、原発事故のあと5年ほど原発を停止していたことで、周辺の海洋環境が劇的に改善されてきています。
「使用済み核燃料」「放射性廃棄物」
いま日本では、使用済み核燃料を再処理するやり方で進めてきています。幸いに、青森県六ヶ所村の核燃料再処理工場がうまく稼働しないために、試運転したあとは止まったままですが、再処理工場が本格稼働し始めると、原発が一年間に放出する放射能の量を1日で放出すると言われてます。つまり、再処理工場は「原発365基分ほどの放射性物質を放出する」ということです。
米国でがんを引き起こしたと指摘されているトリチウムという放射性物質は、大気中に年間1900兆ベクレル、海には1京8000兆ベクレルも放出します。それ以上に放出するのが、クリプトン85という放射性物質で、大気中に年間33京ベクレルも放出します。ものすごい放射能の量です。
そして、100万年も毒性が残る放射性廃棄物の問題です。
元京都大学原子炉実験所の小出裕章さんは、放射性廃棄物という言い方をされません。「廃棄できないものだから」放射性毒物とか廃物という言い方をされます。『10万年後の安全』という映画がありますが、アメリカのユッカマウンテンという廃棄物処理場をめぐる裁判の判決では、100万年の管理が必要だという判決がおりています。100万年であっても10万年であっても人間が想像できないほど長い間、生物の健康を害する毒物だということです。
被曝労働
原発で働く人たちも被ばくしています。原発というものは被曝労働がなければ、稼働させたり検査したりすることはできませんが、原発で働く「被ばく労働者」の皆さんは、放射線の本当の怖さを知らないまま働いています。そして、被曝する放射線量は、電力会社の社員よりも下請け、孫請け、ひ孫請けといった会社に雇われた人たちの方が多くなっています。
なかなか認められないのですが、2016年10月現在で13人が白血病や悪性リンパ腫で労災認定を受けています。被ばく線量が最も低くて労災を認定された人は、5ミリシーベルトで認定されています。2015年10月には、福島原発の事故処理作業員が白血病になり、事故処理作業員として初めて労災認定されています。
厚労省は、1976年に定めた原発労働者の白血病に関する労災認定基準の「年5ミリシーベルト以上被曝して、発症まで1年超経過していること」に適合しているとして、福島第一原発の事故処理作業員が白血病になったことを労災と認定しました。
ここで、私たちが思い出さなければならないのは、原発事故前は「(放射線業務従事者ではない)一般人を年1ミリシーベルト以上被ばくさせてはならない」という法律があったにもかかわらず、そして、5ミリシーベルトの被ばくで白血病になった原発作業員が労災と認定されているにもかかわらず、原発事故から5年以上過ぎても国は 「年20ミリシーベルト 以下は健康に影響はない」と勝手に決めて、汚染地に住民を戻す政策をとっていることです。
原子力規制委員会という原発を「規制」すべき組織が、安全基準を20倍にゆるめることで原子力を「推進」しています。
原発事故が起きた当時、内閣官房参与だった小佐古敏荘・東京大教授は、小中学校の放射線基準を年間1ミリシーベルトとするよう主張したのに採用されず、「年間20ミリシーベルトを乳児、幼児、小学生に求めることは学問上の見地からのみならず、私のヒューマニズムからしても受け入れがたい。自分の子どもをそういう目に遭わせたくない」と抗議の辞任をしています。
日本赤十字社の原子力災害時における医療救護の活動指針でさえ、一般住民の年間限度 1ミリ シーベルトを超えない範囲で活動すると決めており、累積被曝線量が1ミリシーベルトを超える恐れがあれば、安全な地域に退避すると決めています。
◆原発事故から5年8カ月が過ぎて
こうした状況がある中で政府は、汚染地に住民を戻そうとしているのです。
チェルノブイリでは、原発事故から5年後に「チェルノブイリ法」を制定し、年間被ばく線量が5ミリシーベルト以上の地域は「強制移住区域」とされ、1~5ミリシーベルトの地域は「移住選択区域」として住民に移住の権利が与えられ、移住しやすいように様々な補償がされました。
日本は、未だに「20ミリシーベルト基準」を撤回せず、原発事故が起きる前の被ばく限度基準(年間被ばく量が1ミリシーベルト)を超える汚染地から移住した人を「自主避難」と位置づけ、「最後の命綱」である住宅の「支援」まで打ち切ろうとしています。
こんな政策を私たちは、認めることはできません。
政府が非人道的な政策をやめて、脱原発を決定するまで
私たちは声を上げ続けます。
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★以下は、参考記事
シェーナウからのメッセージ:原子力に反対する 100 個の十分な理由
http://post-311.blogspot.jp/2012/04/100.html
ウラン鉱山による巨大な被曝
http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/Ningyo-toge/Ugoki.html
インド東部ジャドゴダ・ウラン鉱山の村
http://www.morizumi-pj.com/jadogoda/jadogoda.html
ウラン採掘の段階から、世界の先住民族は核被害を受け続けている
http://www.windfarm.co.jp/blog/blog_kaze/post-6885
苦難の先住民 インド・ジャドゥゴダ・ウラン鉱山
http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/genpatu/india/nnaf-ind.pdf
燃料とウラン採掘
http://100-gute-gruende.de/pdf/g100rs_jp.pdf
原子力発電所周辺で小児白血病が高率で発症
―ドイツ・連邦放射線防護庁の疫学調査報告―
http://www.cnic.jp/modules/smartsection/item.php?itemid=122
「原発周辺で子どもの白血病が倍増」 フランス国立保健医学研究所
http://www.windfarm.co.jp/blog/blog_kaze/post-8961
原発が止まると乳児死亡率が激減
http://www.windfarm.co.jp/blog/blog_kaze/post-3497
原発が多い地域と乳がん死亡者が増加している地域が重なっている
http://blog.goo.ne.jp/ha…/e/2fbf60a0c01ac3c3940fc632ae2a030b
韓国では、原発の周辺で甲状腺がんが多発
http://www.windfarm.co.jp/blog/blog_kaze/post-18286
甲状腺がんの発症責任が原発にあるという判決
http://oklos-che.blogspot.jp/2014/10/
原発を冷やすために海水を吸い上げる時、一緒にプランクトンや魚の卵、稚魚などの生き物を吸い上げてその多くが死んでいる
http://www.windfarm.co.jp/blog/blog_kaze/post-2136
原発停止で温排水も止まって 周辺の海洋環境が劇的に改善
http://www.windfarm.co.jp/blog/blog_kaze/post-15842
原発が一年間に放出する放射能の量を1日で放出する再処理工場
http://kiikochan.blog136.fc2.com/blog-entry-2137.html
米国でがんを引き起こしたトリチウム
http://www.windfarm.co.jp/blog/blog_kaze/post-8421
10万年後の安全
http://www.uplink.co.jp/100000/
米国で環境保護庁がユッカマウンテン放射線防護基準の連邦規則最終版を公表-1万年から100万年までの放射線防護基準は1ミリシーベルト
http://www2.rwmc.or.jp/nf/?p=1143
原発労働者のガン 5ミリシーベルトで労災認定
http://www.windfarm.co.jp/blog/blog_kaze/post-5238
原発労働被曝で労災認定、悪性リンパ腫では全国初
http://www.windfarm.co.jp/blog/blog_kaze/post-645
福島原発事故の作業員が白血病 初の労災認定・厚労省
http://hokinet.jp/22.html
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