1992年の地球環境サミットの最後に12歳の少女が行なったスピーチは後に「伝説のスピーチ」と言われるようになりました。その時12歳だったセヴァンさんは、現在36歳となり、2児の母となっています。ウインドファームと放射能から子どもを守る企業と市民のネットワークが、今月セヴァンさんを招聘し、東京、京都、岡山、福岡、北九州で講演+対談などを行います。
今回のセヴァン講演会+対談を企画し、全国をセヴァンさんと共に回って対談する中村隆市さんが、講演や対談の内容に関して、セヴァンさんとのやりとりの一部を公開しています。
********中村さんからセヴァンさんに送られたメール(抜粋)*******
親愛なるセヴァン
今回のツアーのタイトルは、「セヴァン・スズキのBe the change! ツアー 2016 未来の選択 」です。チラシには、こう書いています。
なぜ地球では、環境破壊と汚染が広がり、貧富の差が広がり、紛争や戦争が続くの?
なぜ日本では、放射能汚染地で甲状腺がんや心臓病が増えているのに汚染地に人を戻すの?
なぜ、あんなにひどい原発事故が起きたのに、原発を再稼働させるの?
なぜ、平和を守るために武器の輸出を拡大し、戦争をしないと約束した憲法9条を変えようとするの?
セヴァンを今、日本に呼びたいと思った直接的な理由が3つあります。
今、日本で進行している最大の問題は、原発事故の後、政府が子どもたちの生命を守ろうとしていないことだと私は思っています。原発事故から5年が過ぎ、甲状腺がんや心臓病などが年々増え続けている(福島の子どもの甲状腺がんは、福島県全体で通常の数十倍に増え、高汚染地では100倍以上に増えている。
心臓病は、他県の2ー3倍になっている)にもかかわらず政府は、放射能汚染地の住民を「年間20ミリシーベルト(mSv)まで被ばくして安全」と決めつけて、避難した人たちを汚染地に戻しています。(原発事故前の被ばく限度は年1mSvだった)
(20ミリシーベルト基準に抗議の辞任をした内閣官房参与)
チェルノブイリ原発事故の放射能で汚染されたウクライナ、ベラルーシ、ロシアは、原発事故の5年後に「チェルノブイリ法」をつくり、原発事故による被ばく線量が、「年間1mSv」を超える地域を補償の対象としました。そして、年1ー5mSv被曝する地域住民に「移住の権利」が与えられ、5ミリシーベルト以上は「強制移住」として、住居や雇用、喪失財産の補償などをすることで移住しやすくしました。
一番、犠牲になるのは、子どもたちです。
細胞分裂が活発なほど放射線の影響を大きく受けるため、子どもは大人より大きな健康被害を受けます。今の日本政府は、子どもたちの命よりも原発の輸出や再稼働、オリンピックなどの「目先の経済」を優先しています。
チェルノブイリは今年、原発事故から30年になりましたが、年1mSv以上の汚染地に住み続けた人たちに病気になる人が多いため、今でも汚染地から移住する人たちが絶えません。
原発事故から29年後の汚染地域住民の健康診断
事故後に生まれた子どもにも病気が多い
福島県の汚染が強い地域には、150万人以上が住んでおり、年1mSv以上の汚染地は、福島県外にもまだら模様に広がっていて、数百万人がそこに住んでいます。さらに政府は、その汚染地から避難した住民への無償住宅供与を打ち切るなどと決定して、住民を汚染地に戻す政策をとっています。
こうした政府の動きに対して、最も抵抗しているのが、お母さんたちです。
今回の講演ツアーの中で、京都、岡山では、福島県から避難して、子どもを守る活動に取り組んでいるお母さんが、トークセッションに加わります。私は、政府が行なっている 非人道的な 恐ろしい政策を 多くの人に知ってもらい、それをやめさせるよう一緒に声を上げてほしいと願っています。
(原発事故被害者に「健康に生きる権利」を求める請願署名)
2つめの理由は、今年の4月から「電力自由化」が始まるということです。
多大な犠牲を生み続けている福島原発事故が発生したことが、家庭用も含めた電力自由化を実現させた大きなキッカケになりました。ようやく市民が自分で電力会社を選べるようになったのですが、メディアの多くは、「どこが安いか」といったことばかりを報じています。そのため、石炭火力発電所が増えようとしています。私たち「消費者」がどのような電源を選択するかによって、脱原発を進めたり、気候変動への影響を小さくすることができることをセヴァンと共に伝えたいと考えています。
3つ目の理由は、私たちにとって宝物ともいえる「戦争しないことを約束した憲法」を政府が変えて、戦争ができる国にしようとしていることです。
この憲法9条は、世界に誇れる平和憲法だと思います。もしも、現政権が7月に予定されている選挙で、一定の数を超える議席を取った場合、憲法が変えられてしまいます。戦後、最も重要な選挙だと私は思っています。
戦後70年間、日本は戦争をしませんでした。
自衛隊員が外国人を殺すことも殺されることもありませんでした。あと30年それを続けたら、1世紀もの間、戦争をしなかったという実例を世界に示せることになります。それはきっと、世界にもいい影響を与えると思います。
すでに政府は、マスメディアに圧力をかけて、報道の自由度を低下させています。秘密保護法という法律もつくって、国民の知る権利をどんどん奪い取っています。国境なき記者団の「報道の自由度ランキング」では、2010年は世界の11位だったのが、去年は61位で、今年は72位に急落しています。
政府は、これまで制限していた武器の輸出も拡大し始めました。
そして、原発事故を起こしておきながら、原発の輸出さえ進めています。彼らは、経済さえ成長すれば、何でもやるようになってきました。実際に彼らの選挙ポスターには、「景気回復、この道しかない」と書いています。
問題は、経済のためなら、人命を脅かし、環境を破壊したり汚染することでも平気でする政党を支持する人が多いこと、そして、環境問題や戦争の問題、貧富の差が拡大している問題も含めて、政治の影響を最も受ける若い世代が選挙に行かないことです。
そのことが日本社会をますます悪化させています。
先日、ウルグアイのムヒカ前大統領が来日して、若者たちに以下のようなスピーチを行いました。
ムヒカさんは、リオ+20でも素晴しいスピーチをしているので、セヴァンも知ってることでしょう。
世界を担っていく若い人たちに向けて話をしたい。
これから来る世界を、今ある世界よりもより良いものにしよう、という意志を持とうではないか。近年、地球環境破壊を制限しようと京都議定書が結ばれたが、できなかった。海の汚染も止める手だてがない。今、世界では1分間に200万ドルの軍事費が使われているというが、誰もそれを止められない。そして極めて少数の者に、世界の富が集中している。生産性が高まったけれども、分配の仕方が悪いので、社会的な弱者に恩恵が及ばないのだ。
「政治に関心がない」「政治は重要じゃない」と言う人がいるが、政治を放棄することは少数者による支配を許すことにつながる。日本では若者が希望を持てないと聞いた。若い世代の投票率が30%程度だと聞いた。政治や社会を信じていないのだろう。それでも、信じられるようにしてほしい。不満を持つのはいいことだ。どうか同じ気持ちの人と何かを始めてほしい。生きるには希望が必要。そうでなければ人生なんて意味がないから。
このスピーチを聞いて、私は12歳のセヴァンがリオで行ったスピーチを思い出しました。
2日前ここブラジルで、家のないストリートチルドレンと出会い、私たちはショックを受けました。ひとりの子どもが私たちにこう言いました。「ぼくが金持ちだったらなぁ。もしそうなら、家のない子すべてに、食べ物と、着る物と、薬と、住む場所と、やさしさと愛情をあげるのに」
家もなにもないひとりの子どもが分かちあうことを考えているというのに、すべてを持っている私たちがこんなに欲が深いのは、どうしてなんでしょう・・・もし戦争のために使われているお金をぜんぶ、貧しさと環境問題を解決するために使えばこの地球はすばらしい星になるでしょう。
スピーチ全般を通じて、ムヒカさんとセヴァンは、同じようなことを話していると思います。
ムヒカさんは、学生たちに対して、こんな話もしています。
「市場によって、私たちは組織だった社会に生きるようになったが、それは人々に浪費を強いるシステムでもある。何かを買うために生きる。浪費し、消費することが不可欠な社会になってしまった。お金で物を買っていると思うだろうが、実は自分の人生の一定の時間と引き換えているのだ。
家族や子どもと過ごす時間を削って消費する。新しい物を、いい物を買うために、人生で一番大切なのは愛であるのに、愛情を注ぐ時間を浪費している。消費そのものを否定はしない。ただ、過剰はいけない。人生の原動力となる愛情を注ぐ時間を確保するために、節度が必要だ。私は世間から「貧しい」と言われているが、私は決して貧しくない。質素を好むだけだ。浪費を見直し、それぞれが人生を見直すことが重要になってくる。市場に操られて生きているうちに、あなた方の自由な時間が失われてしまう。本当に必要な物だけを買おう。
「貧乏とは、少ししか持っていないことではなく、限りなく多くを必要とし、もっともっとと欲しがることである」という言葉を覚えておいてほしい。
私の考えに同意しろとは言わない。自分にとって何が大切かを考えてほしいだけだ。」
この最後の「自分にとって何が大切かを考えてほしい」という言葉を聞いて私は、2002年にセヴァンが来日したとき、ツアーの最後に語り合った私たちの会話を思い出しました。
中村「ひとり一人が自分のやりたいことや大切にしていることを大事にして、自分自身の人生を充実して生きることが大事なんじゃないかな、それが
皆のいのちを大事にすることにつながるんだと思う」
セヴァン「まさにそうなんです。世界は要するに自分自身なんです。自然というのは自分自身なんです。自分自身を大事にできない人が、環境も何もない、まさにそういうことを私は言いたかったんです」
今回の講演ツアーの中で、私個人が多くの人に知ってほしい具体的なことは、先ほど伝えたようなことだけど、そうしたことを知っても、子どもたちのいのちを守りたいとか、若者たちを戦場に送りたくないという気持ちが湧いてこなければ、行動につながらないでしょう。
マネーの凄まじい力が現代社会を支配しており、「経済優先社会」の大きな流れに反してでも、人が行動を起こすとすれば、そのベースにあるのは、優しさや思いやり、愛や慈悲といったものだと思います。そのような心は、本来、誰もが持っていると思います。
今回、セヴァンには、そうした優しい心と行動する勇気を引き出すような話をしてほしいと思っています。そして、対談では「しあわせ」や「人生」について語りあいたいと私は思っています。一度しかない人生を、与えられた「いのち」を、どのように生きるのか。
例えば、原発のような、燃料のウランを鉱山から採掘する段階から環境を破壊し汚染して、周辺住民を病気にしたり、稼働中も原発周辺の子どもや原発労働者に病気を増やし、温排水と吸水によって海の生態系も破壊し、100万年もの長期に渡って放射性毒物を未来世代に残してしまうような原発の電気を使いながら、幸せな気持ちで人生を過ごせるだろうか。
原発事故で被ばくさせてしまった子どもたちや若い世代をさらに被ばくさせるような政治を許しながら、私たちは幸せに生きることができるだろうか、
といったことについても話し合いたいと思っています。
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8日東京、10日京都、11日岡山、14日福岡市、15日北九州市でのセヴァン講演+対談にぜひ、ご参加下さい。
http://hokinet.jp/49.html
http://www.severn2016.com/
(2007年、青森県六ケ所村で植林したあとに万歳するセヴァンと若者たち)
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