福島県の汚染地帯で「胎児」「赤ちゃん」の死亡がなぜ多発するのか

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(2015年3月24日 宝島)

福島県の汚染地帯で新たな異変発覚!「胎児」「赤ちゃん」の死亡がなぜ多発するのか? ~誰も書けなかった福島原発事故の健康被害 【第6回 前編】~

最新2013年の「人口動態統計」データを入手した取材班は、高い放射能汚染に晒されている「17の市町村」で、周産期死亡率が急上昇している事実に辿り着いた。ジャーナリストが自力で行なう「原発事故による健康への影響調査」最終回!

■この世に生まれ来る前の“犠牲者”たち

福島地図

 周産期――。一般に「安定期」ともいわれる妊娠22週から、生後満1週間までの期間を指す医学用語だ。そして、その期間中の赤ちゃんの死亡率を表わしたものを「周産期死亡率」という。
 出産数1000人のうち、何人の赤ちゃんが死亡したかの人数で表わされる周産期死亡率は、その地域における胎児の健康状態を表わすのと同時に、母親の健康状態のバロメーターの役目も果たすとされる。そして、福島第一原発事故が発生した2011年以降、この周産期死亡率が福島県で急上昇している。

 以下に紹介するのは、福島県生まれで現在は神奈川県に暮らす女性読者Bさんから本誌取材班に届いたメールである。
「私は今、妊娠28週目で、先日、羊水過多に加え、胎児に先天性横隔膜ヘルニアの疑いがあると診断されました。食事にも気をつけて生活していたのですが、それでも今の日本で内部被曝を完全に避けることはできませんので、それで胎児が先天異常になったのではないかと心配しています。原発事故後、実家のある福島県にも帰省しましたので、その際の内部被曝もあるかと思います」
「先天性横隔膜ヘルニア」とは、胸とお腹を分けている横隔膜に、生まれつき穴があいている病気だ。その穴から小腸や大腸、胃、肝臓といった臓器が胸のほうに入り込み、肺が圧迫されることで重症の呼吸不全を引き起こす。誕生直後からの呼吸管理が肝心で、症状の程度によっては誕生から数日以内に、臓器を元の位置に戻し、横隔膜の穴を修復する手術を行なう必要がある。Bさんのメールは続く。
「先天性横隔膜ヘルニアは、出生児2000~3000人に1人の確率で発生する疾患だそうです。従って、原発事故の影響とは言えないのかもしれません。主治医に『放射能の影響ですか?』と聞くこともできず、モヤモヤした気持ちは今も残ったままです。
 原発事故後、周産期の異常も増えているのかどうか知りたいです。今後、何かの機会に触れていただけたら、とても助かります」

福島図1・2

 そこで本誌取材班は、福島県と全国の周産期死亡率に異常が見られないか検証してみることにした。
 【図1】を見てほしい。人口動態統計の過去7年分(2007年~2013年)のデータをもとに、福島県における周産期死亡率を折れ線グラフで表わしたものだ。実数である「周産期死亡数」でも折れ線グラフを作ってみたところ、同死亡率とそっくりな軌跡を描いている。
 福島県の周産期死亡率は08年をピークに下がり始め、11年までは右肩下がりで順調に下降し、11年にはついに全国平均を下回るまでになっていた(【図2】)。

福島表1・2

 だが翌12 年以降、突如上昇へと転じる。12年に再び全国平均を上回り、その1年後の13年には、不名誉極まりない「全国第2位」の周産期死亡多発県となってしまうほど、急上昇していたのである(【表1】【表2】)。

 【図2】は、福島県と全国の周産期死亡率をグラフにして比べたものだ。全国平均のほうは、11年以降も右肩下がりで順調に数を減らし続けている。
 にもかかわらず、なぜ福島県は急上昇へと転じたのか。
 福島県の胎児たちは11年以降、何らかの“異変”に見舞われ、健康状態が急激に悪化している──。本誌取材班は、そう断定した。問題は、その“異変”の原因が何であるか、だった。

■「汚染17市町村」で周産期死亡が多発
 本誌取材班では“異変”の理由を突き止めるべく、さらに検証を進めた。放射能汚染の濃淡によって、周産期死亡率に差がないかを調べたのである。

福島図3

 【図3】は、福島県内を「避難7町村」(注1)、「汚染17市町村」(注2)、それ以外の「その他」の3つの地域に分け、それぞれの周産期死亡率を折れ線グラフにして示したものだ。
「避難7町村」の値が激しく上下しているのは、この地域内の人口がおよそ6万人から7万人と少ない上に、急激な人口減少に見舞われているためである。12年の周産期死亡率は「出産1000人当たり6.35人」という全国ワーストレベルの値を記録しているものの、翌13年の同死亡率は「同3.66人」と、同年の全国平均と同じレベルにまで下降している。
 問題なのは、12年12月28日現在のセシウム137の汚染値の平均が1平方メートル当たり4万8000~33万1000ベクレルの汚染に達していた「汚染17市町村」だった。我が国では、1平方メートル当たり4万ベクレル以上の汚染がある区域を「放射線管理区域」とするよう法律で定めているが、これら17市町村は、まるごと「放射線管理区域」とすべきレベルの放射能汚染に見舞われていることになる。
 この地域内の人口はおよそ81万人。同地域の周産期死亡率は、福島県全体の同死亡率と全く同じ傾向を示している。つまり、原発事故発生年の11年までは右肩下がりで下降し続けていたのが、翌年以降、上昇に転じているのだ。
 しかも、最新13年の値は、福島県全体の同死亡率(同5.34人)を上回る同5.48人。この値は、13年における「全国第1位」の群馬県(同5.47人)さえ上回っている。文字どおりの異常事態が「汚染17市町村」で起きていた。
 気になることは、これだけにとどまらない。「汚染17市町村」より放射能汚染度の低い「その他」の地域(12年12月28日現在のセシウム137の汚染値の平均が1平方メートル当たり4万8000ベクレル以下)の13年周産期死亡率(同5.342人)もまた、福島県全体の同死亡率をわずかながら上回っていた。同死亡率の推移にしても、11年に底を打ち(同3.95人)、それ以降から上昇へと転じているのは、「福島県全体」や「汚染17市町村」と同じである。
 この事実は、高線量の被曝はもちろん、低線量でも胎児の健康に悪影響を与える可能性を示唆していた。
 そして、本稿の冒頭で紹介したBさんの実家も、この「その他」の地域にあった。

(注1)原発事故による全域避難措置が取られている楢葉町、富岡町、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、飯舘村の7町村。
(注2)12年12月28日現在のセシウム137の汚染値の平均が1平方メートル当たり4万8000~33万1000ベクレルの汚染地域。相馬市、南相馬市、福島市、国見町、桑折町、伊達市、川俣町、二本松市、大玉村、本宮市、三春町、田村市、川内村、広野町、須賀川市、西郷村、白河市の17市町村。

福島図4

 11年において「福島県全体」(同3.57人)、「汚染17市町村」(同3.17人)、「その他」(同3.95人)のいずれの地域も全国平均(同4.09人)を下回っているのは、原発事故で漏れ出した放射能による胎児への悪影響を嫌い、出生数自体が大きく下がったことが原因である可能性もあった。そこで、念のため全国と福島県における出生数の推移も調べてみた。その結果が【図4】であるが、福島県の出生数が激減していたのは11年ではなく翌年の12年であり、しかも13年には復調していた。09年から13年までの福島県における中絶件数も調べたが、大きな変動は見られず、年を追うごとに減少していた(注3)。
 ようするに、多くの人々が「放射能による胎児への悪影響を嫌った」結果、事故の翌年の12年に福島県の出生数が激減したにもかかわらず、同県の周産期死亡率のほうは急上昇していたのである。
 この1年だけを見れば、「分母」である出生数が減ったので周産期死亡率が上がったとも考えられそうだが、その翌年の13年は、「分母」の出生数が復調したにもかかわらず、周産期死亡率はさらに上昇し続けている。この事態は、「出生減」では説明がつかない。
 11 年に福島県の周産期死亡率が大きく減少したのは、福島県の周産期医療対策が功を奏した結果だと、素直に評価すべきなのだろう。そして、その成果を一気に台なしにした“異変”とは何だったのか。
 この世に誕生することなく亡くなった福島県の赤ちゃんたちや、生まれて間もなく亡くなった福島県の赤ちゃんたちが、自らの命と引き換えに、何を私たちに伝えようとしているのか──。
 その真の意味をきちんと受け止め、悲劇を繰り返さないため後世に活かしていくのは、震災後を生きる私たちの義務であると、本誌取材班は考える。

(注3)福島県の中絶件数
2009年 4686
2010年 3739(相双保健福祉事務所管轄内の市町村の数字を含まず)
2011年 3761
2012年 3656
2013年 3233

取材・文/明石昇二郎(ルポルタージュ研究所)+本誌取材班
(記事の全文は『宝島』2015年4月号に掲載)


2015年3月25日

福島県の汚染地帯で新たな異変発覚!「胎児」「赤ちゃん」の死亡がなぜ多発するのか?~誰も書けなかった福島原発事故の健康被害 【第6回 後編】~

最新2013年の「人口動態統計」データを入手した取材班は、高い放射能汚染に晒されている「17の市町村」で、周産期死亡率が急上昇している事実に辿り着いた。ジャーナリストが自力で行なう「原発事故による健康への影響調査」最終回!

■小児甲状腺ガン、急性心筋梗塞「汚染17市町村」で同時多発

福島図5

 福島第一原発事故発生当時、18歳以下だった福島県民の人口は36万7707人。そのうち、14年12月末時点で甲状腺ガン、またはその疑いがある子どもの合計は117人である。この数字をもとに、福島県全体の小児甲状腺ガン発症率を計算してみると、10万人当たり31.8人となる。これでも相当な発症率であり、十分「多発」といえる。
 14年度の検査で新たに「甲状腺ガン、またはその疑いがある」と判定されたのは8人だが、そのうちの6人が「汚染17市町村」の子どもたちである。「汚染17市町村」における小児甲状腺ガン発症率を計算してみると、同33.0人と県平均を上回り、より多発していることがわかった。
「汚染17市町村」では、急性心筋梗塞も多発している。【図5】は、同地域における過去5年間の「急性心筋梗塞」年齢調整死亡率を求めたものだ。
 最新13年の年齢調整死亡率は、福島県全体(同27.54人)を上回る同29.14人。おまけにこの数値は、12年(同29.97人)から“高止まり”している。つまり「汚染17市町村」が、福島県全体の同死亡率を押し上げていた。
 周産期死亡率、小児甲状腺ガン発症率、さらには急性心筋梗塞年齢調整死亡率のいずれもが、「汚染17市町村」で高くなる──。
 これは、福島第一原発事故による「健康被害」そのものではないのか。それとも、偶然の一致なのか。
 本誌取材班は、東京電力を取材した。同社への質問は、
(1)原発事故発生後の「福島県における周産期死亡率の上昇」は、原発事故の影響によるものと考えるか。
(2)原発事故発生後の「汚染17市町村における周産期死亡率の上昇」は、原発事故の影響によるものと考えるか。
(3)「汚染17市町村」で周産期死亡率と急性心筋梗塞年齢調整死亡率がともに上昇していることは、この中に、被曝による「健康被害」が内包されている可能性を強く示唆している。これに対する見解をお聞きしたい。
 という3点である。
 取材依頼書を送ったところ、東京電力広報部から電話がかかってきた。
      *
「(記事を)読む方が、心配になったりするような内容ではないんでしょうかね?」
──「心配になる内容」とは?
「質問書をいただいた限りだと、『震災以降、率が上がっている』といったところで、特に不安を煽るような内容になったりするのかなと、個人的に思ったものですから」
──「不安を煽る」とはどういうことでしょうか?質問した内容はすべて、国が公表したデータなど、事実(ファクト)に基づくものです。
「ファクトですか」
──はい。
「国等(とう)にも当社と同様にお聞きになった上で、記事にされるんでしょうかね?」
──はい。そうです。
      *
 その後、同社広報部からファクスで次のような“回答”が送られてきた。
「人口動態統計での各死亡率等についての数値の変化については、さまざまな要因が複合的に関係していると思われ、それら変化と福島原子力事故との関係については、当社として分かりかねます」
 しかし、「分かりかねる」で済む話ではない。
 そもそも、日本国民の「不安を煽る」不始末を仕出かしたのは東京電力なのである。それを棚に上げ、事実を指摘されただけで「不安を煽る」などという感情的かつ非科学的あるいは非論理的な言葉で因縁をつけてくるとは、不見識も甚だしい。
 自分の会社の不始末が「国民の不安を煽っている」という自覚と反省が不十分なようだ。猛省を促したい。

福島東電回答

<東京電力は、原因究明を「県民健康調査」に丸投げした>

■環境省「放射線健康管理」の正体を暴く
 続いて、国民の健康問題を所管する厚生労働省に尋ねた。
      *
「それは、環境省のほうに聞いていただく話かと思います」
──原発事故による住民の健康問題は、環境省に一本化されていると?
「そうですね」
      *
 ご指名に基づき、環境省を取材する。面談での取材は「国会対応のため、担当者の時間が取れない」との理由で頑なに拒まれ、質問への回答は、同省総合環境政策局環境保健部放射線健康管理担当参事官室よりメールで寄せられた。回答は以下のとおり。

「昨年12月22 日に公表された、『東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議』の中間取りまとめによれば、
●放射線被ばくにより遺伝性影響の増加が識別されるとは予想されないと判断する。
●さらに、今般の事故による住民の被ばく線量に鑑みると、不妊、胎児への影響のほか、心血管疾患、白内障を含む確定的影響(組織反応)が今後増加することも予想されない。
 とされています」
 環境省は、たとえ周産期死亡率や急性心筋梗塞年齢調整死亡率が増加したとしても、それは原発事故の影響ではない──とした。その根拠は「専門家会議の中間取りまとめ」が、原発事故の影響でそうした疾患が増加することを予想していないからなのだという。ちなみに、「専門家会議」を所管しているのは、この回答の発信元である同省の「放射線健康管理担当参事官室」である。
 科学の権威たちが揃って予想だにしないことが起きたのが福島第一原発事故だったはずだが、あくまで「予想」に固執する環境省は同じ轍(てつ)を踏みそうだ。もちろん、科学が重視すべきは「予想」より「現実」である。
 環境省の説が正しいとすれば、原因は別のところにあることになり、それを明らかにするのが科学であり、それは環境省が拠りどころとする「専門家会議」の仕事のはずだ。だが、その原因を特定しないまま、環境省は端から全否定しようとするのである。なぜ、環境省は現実から目を逸らし、真正面から向き合おうとしないのか。
 身も蓋もない言い方だが、環境省が現実に目を向けることができないのは、昨年12月に出したばかりの「中間取りまとめ」を、環境省自身が否定することになりかねないからなのである。つまり、本誌取材班の検証で明らかになった「汚染17市町村」での周産期死亡率や急性心筋梗塞年齢調整死亡率の増加の事実は、「専門家会議の中間取りまとめ」の「予想」結果を根底から覆しつつ「権威」を失墜させ、その贋物性を白日の下に曝け出してしまうものだった。
「中間取りまとめ」が予想していない疾患の増加はすべて「原発事故の健康被害ではない」として、頭ごなしに否定する環境省の姿勢は、かつて「日本の原発は事故を起こさない」と盛んに喧伝してきた電力御用学者たちの姿を彷彿とさせる。
 12年7月に出された国会事故調(東京電力福島原子力発電所事故調査委員会)の報告書は、
「歴代の規制当局と東電との関係においては、規制する立場とされる立場の『逆転関係』が起き、規制当局は電力事業者の『虜』となっていた。その結果、原子力安全についての監視・監督機能が崩壊していた」
 としていた。環境省もまた、電気事業者の「虜」となっているようだ。そう言われて悔しければ、「現実に向き合う」ほかに名誉挽回の道はない。

福島パンフ

 このように不甲斐なく、頼りにならない環境省のおかげで、このままでは「汚染17市町村」での“健康異変”は十把一絡(じっぱひとから)げにされ、かつて「水俣病」が発覚当初に奇病扱いされたように、原因不明の奇病「福島病」とされてしまいそうである。
 メチル水銀中毒である「水俣病」に地域の名前が付けられたのは、加害企業の責任をごまかすべく御用学者が暗躍し、「砒素(ひそ)中毒説」などを唱えたことにより、原因究明が遅れたことが原因だった。これにより、病気に地域名が付けられ、被害者救済も大幅に遅れることになったのである。
 従って、「汚染17市町村」で多発する病気に「福島」の名が冠されるようになった時の原因と責任は、すべて環境省にある。

取材・文/明石昇二郎(ルポルタージュ研究所)+本誌取材班
(『宝島』2015年4月号より)

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