福島原発事故当時4歳の男児、甲状腺がんと診断
(2017年3月31日 朝日新聞)
東京電力福島第一原発事故当時18歳以下だった約38万人を対象にした福島県の甲状腺検査で、経過観察となった事故当時4歳の男児(10)が昨年、甲状腺がんと診断されていたことが31日わかった。昨年6月の県の検討委員会の発表で事故当時5歳だった1人ががんと診断されており、5歳以下では2人目。
甲状腺がん患者を支援する民間基金「3・11甲状腺がん子ども基金」が記者会見で明らかにした。男児は2014年に受けた甲状腺検査の2次検査で経過観察とされた後、福島県立医大で15年にがんの疑いがわかり、16年前半に甲状腺の摘出手術を受けてがんが確定したという。現在は通常の日常生活に戻っている。
甲状腺検査では昨年末時点で全体で145人ががんと確定。検討委では「被曝(ひばく)の影響は考えにくい」として、理由の一つに、チェルノブイリ原発事故後にがんが多発した5歳以下で、ほとんど患者が見つかっていないことを挙げる。
検討委には2次検査でがんの疑いが見つかったケースが報告される仕組みで、男児は報告対象ではなかった。県立医大は「一般の診療情報なので報告しなかった」と説明するが、同基金は「経過観察の結果がわからなくなり、報告に入らないのは問題だ。(被曝の影響は考えにくいとする)根拠が揺らいでいる」と指摘する。
検討委の成井香苗委員(臨床心理士)は「事故影響を正しく判断できない」と指摘。複数の委員が「報告対象に加えるべきだ」と話す。県の県民健康調査の担当者は「こうした事例があることは把握している」とした上で「検討委でどのように扱うか議論があると思う」と話している。(奥村輝)
184人以外にも未公表の甲状腺がん〜事故当時4歳も
福島県民健康調査の甲状腺検査をめぐり、検査を実施している福島県立医大は30日、これまで公表しているデータ以外にも、甲状腺がんと診断されていた子どもが存在することを認め、ホームページに公表した。OurPlanetTVの取材によると、未公表の症例には、事故当時5歳未満の子が含まれており、検討委員会の議論にも影響を与えそうだ。
公表されていなかったのは、2次検査でいったん経過観察となり、その後、甲状腺がんと診断された患者のデータ。データを取りまとめている福島県立医科大はこれまで、穿刺細胞診で悪性または悪性疑いと診断された子どもは185人(うち1人は良性と確定診断)と発表してきたが、これ以外にもがんと診断された患者がいることを認めた。
医大の田中成省広報室長は、「保険診療へ移行後に見つかった甲状腺がん患者は、あくまでも一般の保険診療なので、センターでは把握していない」と述べ、データを公表してこなかったことについて、「県や検討委員会が決めたルールに従っているだけ」と釈明した。
2500人のデータを除外
福島県が今年2月20日までに公表したデータによると、2次検査で保険診療に移行し経過観察となっているのは、1巡目1,260人、2巡目1,207人、3巡目56人で計2,523人にのぼる。これら経過観察中の患者は、医療費助成事業である「甲状腺検査サポート事業」やインターネットによるケアサポート事業の対象者には含まれる一方、甲状腺がんデータを把握するという最も重要な事業の対象からは除外していた。
経過観察中の悪性腫瘍、2年前に議論
経過観察中に見つかった悪性腫瘍をめぐっては、2015年2月2日に開催された第5回甲状腺評価部会で議論になっている。当時、甲状腺検査を担当していた鈴木眞一教授は、「そういう症例があれば別枠で報告になる」と回答。「経過観察中に発見された悪性腫瘍」として扱われるとの認識を示していた。また保険診療部分のデータも、医大で経過を集積する必要があるとの見方を示していた。
(2015年2月2日 第5回甲状腺評価部会で鈴木眞一教授は「別枠で公表」と言及していた)
しかし、この会議の2ヶ月後に鈴木教授は退任。後任には、甲状腺がんの治療とは関わりのない内科医の大津留教授が就任。経過観察後に悪性と診断されるケースがありながら、特に対応することなく、2年もの間、データを発表せずにきた。鈴木教授の「別枠で報告する」との発言は撤回するのかるのか質問に対し、大津留教授からの回答は得られなかった。
2年前に、この点を質していた春日文子委員は「経過観察中に悪性と診断された方の情報が、検討委員会に報告されていないと聞き、驚いている。県民健康調査の結果、経過観察となり、その過程での診断なので、こうしたデータも当然、報告されるものと思っていた。医大もそう回答したと認識している。」と疑問を投げかける。さらに、「この検査の重要な目的の一つに、甲状腺がんの発生を迅速に、なるべく正確に把握することがある。そのためにも、保健診療に移行した後の症例も、検討委員会において公表すべき。」と指摘。検討委員会で議題にする必要があるとの考えを示した。
未公表データに5歳以下患者の疑い〜不完全な報告で方針決定か
OurPlanetTVの取材によると、未公表の症例には、事故当時4歳の子どもが含まれている。事故当時4歳の男児は、福島県民健康調査の甲状腺検査で精密検査が必要とされたが、経過観察と診断。その後、穿刺細胞診で悪性の疑いがあると診断され、すでに手術を終えている。悪性と診断されたのは、2015年だという。
「県民健康調査」結果を評価している「検討委員会」は昨年3月、「中間取りまとめ」を公表し、小児甲状腺がんの多発は「放射線の影響とは考えにくい」と結論づけた。その理由の一つが、「事故当時5歳以下からの発見はない」というものだった。しかし、公表されていない症例の中に、事故当時5歳以下の子どもがいれば、不完全なデータによって、検査の方針を決めていることとなる。
参考リンク
中間とりまとめ(2016年3月)
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/158522.pdf
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