◆甲状腺がんは、子どもにも大人にも増えている(記事から抜粋)
福島原発事故後に甲状腺ガン 20歳女子の悲痛な日々
2度の手術も、リンパや肺に転移。弟2人も甲状腺にのう胞が…
(2015年9月25日号 FRIDAY)から抜粋
取材・文/明石昇二郎(ジャーナリスト)
「小児甲状腺ガンという診断をうけたときは、『えっ!? なにそれ』という感覚でした。それまでなんの自覚症状もなかったんですから。ガンがリンパや肺にも転移し、その後2回も手術を受けることになるとは思っていませんでした」
こう明かすのは福島県中部(中通り地方)に住む、20歳の女性Aさんだ。
8月31日の福島県の発表によると、11年3月の福島第一原発事故発生当時18歳以下だった県民36万7685人のうち、甲状腺ガン、またはその疑いがあるとされた人は137人。発症率は10万人あたり37.3人で、通常の100倍近くも高い。とくに左ページ下の地図で示した「汚染17市町村」の発症率は 10万人あたり42.9人で、ガンが見つかったAさんも同地区内で悲痛な日々を過ごしている――。
東日本大震災が起きた当日は、Aさんの中学校の卒業式だった。原発事故直後の3日間は外出をひかえていたものの、その後は通常の生活を続けていたという。 「県立高校への進学が決まっていました。事故から1週間後には、制服を注文するため母と一緒にJR福島駅前にあるデパートに出かけたんです。高校入学をひかえた子どもたちが押しかけ、デパートは超満員。建物の外にまで行列がのび、私たちも30分ほど屋外で待たされました」(以下、ことわりのない発言はAさん)
当時は県内の空間放射線量が非常に高く、福島市内では毎時約10マイクロシーベルトを記録していた。そうした事実を知らされず、Aさんはマスクをつけずに外出していたのだ。
通い始めた大学も再発で退学
翌 年の夏休み。自宅近くで行われた県の甲状状検査で、Aさんに異常が見つかる。県からは「福島県立医大で精密検査をお願いします」との通知が届く。「ノドが 少し腫れていましたが、自分で気づかなかった。県立医大で2回目の精密検査を受けたときに医師から『深刻な状態だ』と告げられ、ガンであることがわかったんです。高校3年の夏休みに手術を受け、甲状腺の右半分と転移していた周囲のリンパ組織を切除しました」
だが、これで終わりではなかった。高校で美術部に所属していたAさんは「ウェブデザイナーか学芸員になりたい」という夢を持ち、卒業後、県外の芸術系大学に進学。入学後の健康診断で「血液がおかしい」との結果が出たのだ。「夏休みに帰郷し、県立医大で検査を受けると『ガンが再発している』と言われたんです。治療に専念するため、通い始めたばかりの大学も退学せざるをえませんでした。10月の再手術では、残っていた左半分の甲状腺とリンパ組織を切除。甲状腺は全摘出することになったんです。肺への転移も判明し、術後しばらくはかすれた声しか出ず、キズの痛みをこらえながらリハビリを続けていました」
生理不順にもなりホルモン剤を投与。今年4月には肺がん治療のため「アイソトープ治療」も受けた。放射性ヨウ素の入ったカプセルを飲み、転移したガン細胞を破壊するという療法だ。「カ プセルを飲む2週間ほど前から食事制限があり、大好きなお菓子も食べられません。飲み物は水だけ。カプセルを飲んだ後も3日間の隔離生活を強いられます。 強い放射能のため周囲の人が被曝する可能性があるからです。お風呂に入るのも家族で最後。医師からは『トイレの水も2回流すように』と言われました」
Aさんは4人兄弟の長女で、弟2人も「甲状腺にのう胞がある」との診断を受けている。だが県立医大の担当医は、発病と原発事故との因果関係は「考えにくい」としか言わない。
疫学と因果推論が専門の岡山大学大学院、津田敏秀教授が解説する。「もっとも空間線量が高かった時期に、福島県では県立高校の合格発表が屋外で行われていました。生徒も線量の高さを知らされず無用な被曝をしていた。Aさんが暮らしている場所は、住民が避難していない地域で最大レベルの甲状腺ガン多発地域です。Aさんのケースも原発事故の影響である確率が非常に高い」
*******記事の転載は、ここまで********
◆福島・見捨てられた甲状腺がん患者の怒り
(2016年 4月24日 女性自身)から抜粋
「僕が、がんになったのは、こんな体に産んだお母さんのせいだ! 僕は、どうせ長生きできないんだから、もう放射能の話なんてしないで!」
13年の春、郡山市内に住む川向アキさん(仮名・52)は、次男の隆くん(仮名・事故当時中2)に夜通し泣きながら責められた。
「だから私、隆に言ったんです。『お母さんのせいで、アンタががんになったんだったら、死ぬときは、お母さんも一緒に死ぬべ。ぜったいにアンタ一人では死なせねぇ』って」
隆くんは13年に、県が実施する甲状腺検査で、がんと診断され、14年に、福島県が検査や治療をすべて委託している福島県立医科大学附属病院(以下、県立医大)で、甲状腺の片側を切除する手術を受けた。
14歳の子どもが”がん”と宣告され、病と向き合う恐怖はいかばかりか。また、見守る親の心情は……。
川向さんが、今回、本誌に胸の内を語ろうと思ったのは、治療を受けている県立医大や福島県の対応が、あまりにも患者の心を踏みにじるようなひどいものだったので、「誰かが訴えなくては」と考えたからだ。福島県では、原発事故以降、子どもの甲状腺がんが”多発”している。福島県が、原発事故当時18歳以下だった県内の対象者約38万人(受診者は約30万人)に対して甲状腺検査を実施したところ、11年から15年12月31日までに、甲状腺がんの”悪性”ないし”悪性疑い”と診断された子どもは166人、手術の結果、隆くんのように悪性(がん)と確定した子どもは116人にものぼった。
12年ごろから、「福島県では小児甲状腺がんが多発している」と警鐘を鳴らしていた津田敏秀氏(岡山大学大学院環境生命科学研究科教授)は、「もともと小児甲状腺がんの発症率は、全国平均で年間100万人当たり約3人。ところが福島県内では、この4年間で約30万人中、がんと確定した人が116人。これは、全国平均の約30倍。あきらかな多発です」と、その深刻さを訴える。
小児甲状腺がんは、86年に起きたチェルノブイリ原発事故のあと、ロシアやウクライナ、ベラルーシなどで多発。原子力を推進するIAEA(国際原子力機関)でさえ、被ばくとの因果関係を認めざるをえなくなった唯一の病だ。
しかし、これまで国や福島県は、これほど福島で小児甲状腺がんが増えているにもかかわらず「いっせいにエコー検査したことで、将来見つかるがんを前倒しで見つけている。いわゆる”スクリーニング効果”だ」として、多発すら認めていなかった。ところが、県民健康調査(注)に対して専門家の立場から助言するためにつくられた、「県民健康調査検討委員会(以下、検討委員会)」が、3月末に発表した「中間取りまとめ」では、福島県で小児甲状線がんが”多発”していることを、ようやく正式に認める形となった。つまり、スクリーニング効果では説明がつかないほど増えてしまったというわけだ。
「息子の目の前でがん告知で、顔面蒼白に」
この発表に先立ち、去る3月12日には、福島県の検査で、子どもが小児甲状腺がんと診断された5人の子供の家族が、「311甲状腺がん家族の会」(以下、家族の会)を発足。東京都内で記者会見を開いた。冒頭の川向さんや、記者会見に出席していた患者の親の話を聞いていると、福島県から委託されて甲状腺がんの検査や治療、分析まで一手に引き受けている、福島県立医大の対応のマズさ、ずさんさが見えてきた。
「息子の目の前で、あなたはがんですよ、と伝えられたときはものすごくショックでした。息子は顔面蒼白になって、イスにも座っていられないような状態でしたから。私自身も、目の前が真っ暗になって……。気が遠くなりましたね。息子も、その後数日間は、かなりふさぎこんでいました」
記者会見でそう話していたのは、福島県中通り地方に住む、事故当時10代だった息子の父親。がんの告知も含め、医師からの説明は、わずか10分足らず。いまや常識となっているセカンドオピニオンの説明もなかったという。
「思春期の子どもに対して、あの告知の仕方はないんじゃないかな……」父親は記者会見で、そうもらした。
家族は福島から中継で、顔を隠しながらの会見だった。
実際に子どもが県立医大で治療を受けている手前、表立って批判しづらいという事情もある。
「子どもを人質にとられているようなものだ」と話してくれた患者の母親もいた。
今回、つらい心情を語ってくれた川向さんの場合も、告知のされ方はひどいものだった。
「私たちが診察室に入ると、先生は、しばらくパソコンの画面やエコー画像を眺めて『う―ん』とうなっていたんですが、いきなり「乳頭がんですね、手術しましょう」と言われました」
川向さんの次男、隆君も顔面蒼白になり、親子共々、なにも言葉を発せなかったという。通常は行われるエコー画像を見せての詳しい病状の説明もなく、次の検査の予約をとっておきます、と告げられ、10分ほどで終了。「病院の廊下は、二次検査を受けるために来た子どもたちでいっぱいでした。告知がわずか10分で終わってしまうのも、人手が足りないからでしょう」
通常は、病院の対応が気に入らなければ、病院を変えればすむ。しかし、福島県内には甲状腺の専門医が少ないうえ、国や福島県は、原発事故による被ばくの影響を調べるために、すべての検査データを県立医大に集約しようとしているためマンパワーが不足している。さらに、県が実施している検査の枠組みから外れると、受診しづらいという事情があるのだ。実際に、患者が一般の病院を受診しようとしても、拒否されるケースがあった。
記者が取材した別の母親は、子どもが県で受けた甲状腺検査でB判定(二次検査が必要)の通知が送られてきたので、県立医大に「二次検査はいつ受けられますか?」と問い合わせたが、「いつできるかわからない」との回答を受けた。「早く二次検査を受けて安心したい」と思った母親は、県内の別の医療機関で検査の予約をとり、子どもを連れて行くことに。しかし、検査当日に病院に行くと、医師から、「うちでは診られません。県立医大に行ってください。これからずっと医大で診てもらうようになるんだから、個人の病院で検査することはできないんです」と言って帰されたという。
結局、県立医大で二次検査を受けられたのは、B判定の通知が送られてから約半年後。その間、母親も子どもも、「がんだったら、どうしよう」と、不安な日々を過ごした。結果は、がん。リンパ節にも転移が見られた。「検査を待たされている間に、もっと進行していたら、と思うと、今考えてもおそろしい」と、母親は振り返る。病院の対応が後手にまわり、患者がおきざりにされている現実があった。
過去の公害問題の過ちを繰り返そうとしている
前出の「検討委員会」の中間取りまとめでは、(現時点で完全に影響は否定できないものの)「放射線の影響で多発しているとは考えにくい」と結論づけている。その理由として、あげている主なものが、「将来的に臨床診断されたり、死に結びついたりすることがないがんを、(いっせいに大規模に検査することで)多数診断している可能性がある」という点だ。これを”過剰診断”という。
この説明に従えば、これまで手術を受けた116人の子どもたちの中には、「しなくてよい手術を受けた子どもが含まれている可能性がある」ということになる。県立医大で甲状腺がんの手術を行っている鈴木眞一教授に尋ねてみたところ、「手術は、診療ガイドラインに沿って行っています。手術をせずに経過観察をしていたらどうなっていたかを知る術はありません」という趣旨の回答が文書で寄せられた。
だが、実際に、手術を受けた子どもや保護者は、心中穏やかではない。「家族の会」は4月12日、「ほんとうに不必要な手術が行われていたのなら、許されない」として、現在までに施行されている手術のうち、何例が必要のない手術だったのか明らかにすることや、医療過誤に詳しい専門家を集めた第三者検証機関を大至急設置し、手術の検証を行うことなどを求める要望書を、検討委員会に提出した。
「家族の会」の世話人を務める武本泰さん(郡山市在住)は、「過剰診断説が声高に叫ばれたら、検査を受けないほうがよいと思う県民が増える。そのせいで、重篤な症状に陥る患者が出てきた場合、福島県や医大は訴えられる可能性もあるのでは」と危惧する。実際に、最近では検査の受診率が低下しているのだ。
これに対し、早くから福島県での甲状腺がん多発を警告していた前出の津田氏は、「過去の公害問題などでくり返されて来た過ちを、再び堂々とくり返そうとしている。犯罪的だ」と述べた。さらに、「すでに議論をしている時期はすぎた」として、医療体制の整備や、県民へのリスク喚起など対策を急ぐべきだと語る。
最後に川向さんはこう訴えた。「甲状腺がんは、予後がいいから大丈夫、なんていう専門家もいますが、急にしこりが大きくなったり、すでに肺転移や再発をしたりしている子もいる。盲腸じゃないんですよ、がんなんです。私たちは日々、転移や再発を心配しながら生活しているんです」
取材・文/和田秀子
******** 女性自身の記事はここまで、以下はFRIDAYの記事から抜粋 ********
◆甲状腺がんは子どもだけでなく、大人にも増えている
大人も含む「甲状腺がんの手術数」を原発事故前の2010年と事故後の2013年を「DPC対象病院」で比較すると、九州・沖縄の甲状腺がん「手術数」の増加は 1.07倍の増加ですが、南関東では 1.52倍、北関東では 1.83倍、東北では 2.18倍、そして 福島では 2.78倍に増加しています。(福島県の2.78倍には、子どもたちのスクリーニング検査の数字は入っていないようです)
九州・沖縄 1.07倍<南関東 1.52倍<北関東 1.83倍<東北 2.18倍< 福島 2.78倍
東北地方の「甲状腺がんの手術数」は、以下のように増加してきています。
*元データ(2010年度〜2012年度 2013年度)
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関東地方の「甲状腺がんの手術数」は、以下のように増加してきています。
東京は人口が多いので、手術数も多く目立ちます。逆に群馬は人口が少ないので目立ちにくいのですが、2010年と2013年の手術数を比較すると2.88倍に増えています。茨城も2.26倍と多く、東京は1.62倍、関東全体は1.55倍となっています。
九州地方の「甲状腺がんの手術数」は、以下のように推移してきています。
どの県も右肩上がりではありません。
(大分県には、甲状腺がん治療実績で全国2位の野口病院がある)
九州、近畿、関東、東北は、それぞれ次のように推移しています。
東北と関東だけ増え続けています。
◆福島原発事故後に甲状腺がんだけでなく心臓病も増えています
こうした記事からも分かるように、甲状腺がんは福島県に近いエリアほど増えており、子どもだけでなく、青年にも大人にも増えてきています。また、甲状腺がんだけでなく、チェルノブイリで増えた心臓病をはじめ血管や血液など様々な病気が増え始めています。ところが日本政府は、こうした事実を直視せず、チェルノブイリから学ぼうともせず、逆に「年間20ミリシーベルト以下の被ばくなら安全」と勝手に決めつけて、原発事故以前の「被ばく限度」であった「年間1ミリシーベルト」という国際基準に戻さず、避難していた住民を汚染地に戻し続けています。
チェルノブイリ原発事故から5年後、ウクライナでは「チェルノブイリ法」を制定して、年間被ばく線量が1~5ミリシーベルトの地域では住民に移住の権利が与えられ、移住を選んだ住民に対して国は、移住先での雇用を探し、住居も提供、引越し費用や移住によって失う財産の補償も行われました。
移住しなかった住民にも無料検診、薬の無料化、非汚染食料の配給、保養…などの補償を定めて、住民の健康と生活を守ろうとしてきました。(ベラルーシとロシアにも同様の法律ができています)
一方、事故から5年たっても「20ミリシーベルト基準」を撤回せず、20ミリ以下は安全だとして住民を汚染地に戻している日本…そうした政府の横暴に対して、「特定避難勧奨地点」に指定されていた福島県南相馬市の住民ら約530人が、「まだ安全と言えないのに国が指定を解除したのは不当」として、国に解除取り消しを求める訴訟を起こしています。
このままの政策を続けた場合、子ども世代、若者世代、そして、
これから生まれてくる未来世代が大きな健康被害を受けてしまうでしょう。
国連人権理事会は「科学的な証拠に基づき、年間1ミリシーベルト未満に抑えるべきだ」と指摘しています。
チェルノブイリ原発事故のあと増えた病気
チェルノブイリ原発事故の後、ベラルーシやウクライナで甲状腺がんが急増したことはよく知られていますが、その他にも様々な病気が増えました。(NHK ETV特集『 チェルノブイリ原発事故・汚染地帯からの報告 第2回 ウクライナは訴える 』) 特に、心臓や血管の病気(循環器系疾患)で亡くなる人が急増しました。
そこで、福島の循環器系疾患を調べてみました。循環器系疾患と心疾患、脳血管疾患の死亡率は、原発事故前より増加し、全国平均の1.35倍~1.45倍になっています。
*データソース(政府統計) データソースの見方は一番下に掲載しています。
心疾患の中でも目立つのが「急性心筋梗塞」の死亡率で、この5年間で全国平均の1.9倍から2.5倍に増えています。(全国1位) 全国平均より2.5倍も多いというのは異常なことです。
*データソース(政府統計)
原発事故の前から福島に心臓病が多い理由の一つは、塩分の摂り過ぎなど「生活習慣病」もあるかもしれませんが、塩分摂取が多い東北の中でも、特に福島県の心臓病が多い理由には、放射能の問題がありうると思います。なぜなら、福島には原発が10基もあったことと、明らかになっている「小さな事故」だけでも沢山あるからです。しかも、日本で最初の臨界事故まで起こしています。それを29年間も隠ぺいしていました。東京電力は隠ぺいやデータの改ざんを繰り返しやってきました。そうした体質の中で、過去に10基の原発が、いつ、どれだけの放射性物質を放出しているかは分かりません。
原発は事故が起こらなくても日常的に放射性物質を放出するため、原発に近いほど病気が増えています(ドイツ政府の調査で、原発から5km圏内の小児ガンは全国平均の1.61倍、小児白血病は2.19倍) 福島にある10基の原発は、それに加えて「小さな事故」もいっぱい起こしてきたので、心臓病が増えてもおかしくないと思います。
また、チェルノブイリではリウマチが急増しましたが、福島でも「慢性リウマチ性心疾患」が異常に増えています。
*データソース(政府統計)
これは、慢性リウマチ性心疾患の死亡率の全国平均と福島県とを比べたものですが、福島は原発事故の翌年から急増して全国平均の約3倍も死亡率が高くなっています。(全国1位)
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