チェルノブイリ原発事故のあと増えた病気
チェルノブイリ原発事故の後、ベラルーシやウクライナで甲状腺がんが急増したことはよく知られていますが、その他にも様々な病気が増えました。(NHK ETV特集『 チェルノブイリ原発事故・汚染地帯からの報告 第2回 ウクライナは訴える 』) 特に、心臓や血管の病気(循環器系疾患)で亡くなる人が急増しました。
そこで、福島の循環器系疾患を調べてみました。循環器系疾患と心疾患、脳血管疾患の死亡率は、原発事故前より増加し、全国平均の1.35倍~1.45倍になっています。
*データソース(政府統計) データソースの見方は一番下に掲載しています。
心疾患の中でも目立つのが「急性心筋梗塞」の死亡率で、この5年間で全国平均の1.9倍から2.5倍に増えています。(全国1位) 全国平均より2.5倍も多いというのは異常なことです。
*データソース(政府統計)
原発事故の前から福島に心臓病が多い理由の一つは、塩分の摂り過ぎなど「生活習慣病」もあるかもしれませんが、塩分摂取が多い東北の中でも、特に福島県の心臓病が多い理由には、放射能の問題があると思います。なぜなら、福島には原発が10基もあったことと、明らかになっている「小さな事故」だけでも沢山あるからです。(2002年、東電・原発全17基停止命令。トラブル29件隠ぺい事件報道)しかも、日本で最初の臨界事故まで起こしています。それを29年間も隠ぺいしていました。東京電力は隠ぺいやデータの改ざんを繰り返しやってきました。
そうした体質の中で、過去に10基の原発が、いつ、どれだけの放射性物質を放出しているかは分かりません。
原発は事故が起こらなくても日常的に放射性物質を放出するため、原発に近いほど病気が増えています(ドイツ政府の調査で、原発から5km圏内の小児ガンは全国平均の1.61倍、小児白血病は2.19倍) 福島にある10基の原発は、それに加えて「小さな事故」もいっぱい起こしてきたので、心臓病が増え続けても不思議ではありません。
また、チェルノブイリではリウマチが急増しましたが、福島でも「慢性リウマチ性心疾患」が異常に増えています。
*データソース(政府統計)
これは、慢性リウマチ性心疾患の死亡率の全国平均と福島県とを比べたものですが、福島は原発事故の翌年から急増して全国平均の約3倍も死亡率が高くなっています。(全国1位)
こうした病気以上に甲状腺の病気が増加しています。
甲状腺がんの急増
甲状腺がん悪性・悪性疑い152人〜福島県民健康調査
原発事故後、福島県が実施している「県民健康調査」で、事故当時18歳以下だった子どもの甲状腺検査結果が公表され、2011年から2015年9月30日までの間に、152人の子どもが甲状腺がんの悪性 または悪性疑いと診断された。
2011年から2013年までの先行検査(1巡目)で、甲状腺がんの悪性または悪性疑いと診断された子どもは1人増の115人となった。また手術を終えて甲状腺がんと確定した子どもは2人増え100人となった。
また、本格調査(2巡目)で、悪性または悪性疑いと診断された子どもは(3か月前の発表より)新たに9人増えて39人となり、そのうち15人が手術を終えて、甲状腺がんと確定した。39人のうち、先行検査でA判定だった子どもは37人で、その中にA1(全く異常なし)が19人いた。
<配布資料> https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/21045b/kenkocyosa-kentoiinkai-21.ht…
◆福島の子ども、甲状腺がん「多発」どう考える 津田敏秀さん・津金昌一郎さんに聞く
(2015年11月19日 朝日新聞)から抜粋
■原発事故の影響、否定できぬ 津田敏秀さん 岡山大大学院教授(環境疫学)
福島県の甲状腺検査は1巡目のデータ解析でも、国立がん研究センターの統計による全国の19歳以下の甲状腺がんの年間発生率と比べ、検査時点でがんと診断された人の割合は県央部の「中通り」で約50倍、県全体でも約30倍の「多発」となる高感度の機器で一斉に調べれば自覚症状のない隠れたがんも見つかるため、それを補正して比較した数値だ。一斉検査での「増加」は過去の報告の分析でも数倍程度。福島は桁が違う。多発は県の検討委員も認めざるを得なくなってきた。
「生涯発症しないような成長の遅いがんを見つけている」という「過剰診断」説もある。だが、これほどの多発は説明できない。過剰診断説を採ると、100人以上の手術が不適切だったことになってしまう。県立医大の報告では、同病院で手術を受け、がんと確定した96人のうち4割はがんが甲状腺の外に広がり、7割以上がリンパ節に転移していた。
逆に、多発と原発事故との関連を否定するデータはない。事故直後に放射線量が高かったと見られる県央部や原発周辺自治体ごとのがんの人の割合、事故から検査までの期間をふまえて解析してみると、被曝(ひばく)量と病気の相関関係、つまり「量―反応関係」も見えてくる。
県は、チェルノブイリ原発事故では4~5年後から乳幼児で増えたのに対し、福島では10歳以上に多いなど、違いを強調する。しかし、ベラルーシやウクライナの症例報告書を見ると、チェルノブイリ事故の翌年から数年間は10代で増えているなど、福島と驚くほど似ている。
福島で放出された放射性ヨウ素はチェルノブイリの10分の1(※注1)とも言われるが、いかに低線量でも人体に影響があるとの考え方は国際機関に認められている。人口密度が高ければ影響を受ける人は増える。福島や北関東の人口密度はチェルノブイリ周辺の何倍もあり、多発の説明もつく。
予想される甲状腺がんの大発生に備えた医療体制の充実が必要だ。甲状腺がんは初期の放射性ヨウ素による内部被曝だけが原因ではなく、他の放射性物質からの外部被曝の影響を示す研究もある。甲状腺がんだけでなく、すべてのがんへの影響を考えれば、妊婦や乳幼児には保養や移住も有意義だ。放射線量が高い「避難指示区域」への帰還を進める政策は延期すべきで、症例把握を北関東にも成人にも広げる必要がある。
県の検討委は、甲状腺がんは成長が遅いというが、子どもの場合の実際のデータは違う。 県の検査でも、1巡目で見つからなかったがんやがんの疑いが、2巡目で25人(※9月30日現在39人)も見つかった。すべてが1巡目での見落としではな いだろう。「放射線影響は考えにくい」とは言えない。 科学の役割は、データに基づいて未来を予測し、住民に必要な施策を、手遅れにならないように提案していくことにある。
******朝日新聞の記事の転載はここまで******
※注1:「東電の評価」が変更されて、放射性ヨウ素の大気中への放出量は、チェルノブイリの約3割になっている。
◆ヨウ素131の大気中放出量の推計値はチェルノブイリの約3割
(2012年5月24日 東電発表)
東電は、福島原発事故によるヨウ素131の大気中放出量を500PBqとする独自の推計を公表
チェルノブイリ(国連科学委員会の推計1760PBq)の約3割
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*【データソース(政府統計)の見方】
データソースをクリックすると2009年~2015年までのデータが出てきます。この中の12月のデータをクリックすると、その年の1年間のデータを見ることができます。例えば、2014年12月をクリックし、一覧の下の方にある「12-18 (保管表)死亡数・死亡率(人口10万対),性・死因簡単分類・都道府県(21大都市再掲)別」の右側のExcelをクリックすると、「保管第8表(12月分)死亡数」のページが出ているので、一番下の「保管第8表(年計)死亡数」の右の「保管第8表(年計)死亡率」をクリックしてページを開きます。B欄を広げると「死因」が出てきます。下記のグラフにある「循環器系の疾患」を見る場合は、172番(09000 循環器系の疾患)の欄で、福島(K欄)の死亡率 375.1 を全国(D欄)の死亡率272.3で割ると、福島が全国の1.378倍であり、2009年よりも倍率が高くなってることが分かります。同様に184番の心疾患は、福島の死亡率215.3を全国の死亡率156.9で割ると1.372倍。211番の脳血管疾患は、福島の死亡率131.1を全国の死亡率91で割ると1.441倍だと分かり、原発事故前の年と比べると事故後の傾向が分かります。
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