県民健康調査の集計に含まれない、原発事故時4歳の子どもの甲状腺がんが明らかに

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https://news.yahoo.co.jp/byline/kinoryuichi/20170402-00069421/ より転載

会見する3・11甲状腺がん子ども基金の崎山共同代表

いったい全部で何人の甲状腺がんが発症しているのか。県民健康調査で未発表の発症例があることが明らかになったことで、福島県立医大の情報開示姿勢に疑問符がひとつ増えた。

 

東電福島第一原発の事故後、甲状腺がんを発症した人たちに10万円の給付金を支給している「3・11甲状腺がん子ども基金」は3月31日、新たに6人に対して療養費を給付することを発表した。今回の給付対象者の年齢は原発事故時に4歳から16歳の男子3人、女子3人。事故時5歳未満の子どもに給付するのは初めて。

 

3・11甲状腺がん子ども基金

http://www.311kikin.org

 

同基金の崎山比早子代表理事は会見で、原発事故時4歳の男の子について、県民健康調査で甲状腺検査を受けているが、「これまでに公表された悪性または悪性疑いの数に含まれていない」と指摘。さらに、これまでに基金から給付をした福島県在住者54人の中に、今回のほかにも5人、県民健康調査で公表されている症例には含まれていない人がいるとし、「報告に入らないのは問題だと思う」という認識を示した。

 

県に報告が上がらない症例があることについて、福島県は筆者の取材に対し、「今後、検討委で(報告の範囲や方法などが)議論される可能性がある」と述べた。

 

福島県では現在、県の委託を受けた福島県立医科大学が、原発事故の健康影響を調べるために県民健康調査を実施している。その中で、原発事故時に18歳以下だった子ども、約37万人を対象に甲状腺検査を実施。これまでに184人に悪性腫瘍が見つかったと発表している(2017年2月20日発表)。

 

甲状腺検査は、2011年10月から2013年度にかけて1巡目14年度と15年度で2巡目を実施し、16年度からは3巡目に入った。これまでに、1巡目で約30万人、2巡目で約27万人、3巡目で約7万人が受診した。事故時の年齢は、いちばん下が5歳だ。

 

県民健康調査の甲状腺検査の現状
県民健康調査の甲状腺検査の現状

 

ではなぜ、3・11基金に申請があった症例は、この中に含まれていないのか。

甲状腺検査は2段階で実施されている。1次検査は超音波で甲状腺を診て、問題がある場合は2次検査として尿検査や血液検査などを実施。場合によっては細胞を直接採取する穿刺吸引細胞診をする。

 

2次検査の細胞診で、悪性または悪性の疑いとなった症例と、その手術状況については、3カ月に一度のペースで開催されている県民健康調査の検討委員会(以下、検討委)で、福島医大が報告している。

一方、2次検査の結果、すぐに手術をする必要がないなどと判断されると、しばらく経過の様子を見ることになる。

 

ところが経過観察は、通常の保険診療になるため県民健康調査の枠から外れるため、福島医大はその後の経過を検討委に報告していないのだ。そのため、もし経過観察後にがんが発生しても、現状で検討委は数を把握することができない。

 

経過観察になり報告されないケースについて、福島県立医大の鈴木眞一教授は、検討委の下に設置された専門家会議で次のように説明していた。

「幸いにも今のとこそういう症例がないので、報告してはいませんけど、そういう症例があれば別枠で報告になると思います。経過観察中に発見された悪性腫瘍ということになると思います」

(2015年2月2日開催 第5回甲状腺評価部会)

http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/109100.pdf

 

今回、3・11基金が発表した事故時4歳のケースは、2巡目の検査でB判定になった後、何度かエコー検査を受け、2015年に細胞診を実施。悪性腫瘍の疑いと診断され、2016年前半に手術を受けたという。

 

つまり福島医大は、鈴木教授がこのように説明をした後も、「別枠」での報告をしなかったことになる。もし福島県立医大が報告をしているのなら、すでに発表されていなければならない。

 

これまでの検査で経過観察になった人数は、前掲の表で示したように、2500人を超える可能性がある。また、人数は公表データから読み解くことができるものの、年齢構成は不明だ。3・11基金の崎山共同代表は「この中でがんが発生してもわからないのは問題」という。

 

そしてなぜ、経過観察後の状況を報告しなくてもいいことになっているのか、経緯は明確ではない。県民健康調査を管理している福島医大の健康管理センターは、経過観察は通常診療になるので「個人のプライバシー」を守るため、健康管理センターにも報告はないと説明している。しかし、これまでに発表されている悪性または悪性疑いの症例や数も、通常診療のデータだ。経過観察後の状況報告との違いは明確ではない。検討委からの要請がない限り、実施期間の福島県立医大によって報告するデータが選別されているのが現状だ。

 

このほか、3・11基金には、当初から県民健康調査を受診しないまま、甲状腺がんを発症した人からの申請もあったという。これも、すでに公表されている甲状腺がんの発症数の枠外だ。

 

このような状況について福島県は、発症数は国のがん登録でいずれわかるとしているが、データが揃うのは数年先だ。「県民の健康状態を把握し、疾病の予防、早期発見、早期治療」を目的に設置された検討委が、議論をするためのデータ収集すらできないのでは、これまでの議論の実効性に疑問が生じる。

検討委は2016年3月、甲状腺がんと放射線の影響について「中間取りまとめ」を公表。事故時の被ばく線量がチェルノブイリに比べて低いことや、事故当時5歳以下からの甲状腺がんが発生していないなどとして、「放射線の影響とは考えにくい」と評価している。この評価をまとめた後、事故時5歳の子どもから甲状腺がんが発見されたが、結論に変更はない。

 

そして福島県は、中間とりまとめを受けて、「事故当時0~5歳であった年代の今後のがん発症の状況について注視していく」としている。

 

県民健康調査における中間取りまとめを踏まえた県の対応について

http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/194746.pdf

 

県民健康調査における中間取りまとめ

http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/158522.pdf

 

しかし今回、福島医大が検討委に報告してない事例があることがわかったことで、県が「注視していく」という情報には漏れがあることが明らかになった。注視というのであれば、福島医大に情報提供を求めていく必要があるだろう。福島医大はこれまでも、手術症例を検討委で報告せず、学会発表を優先するなどして批判を受けたことがある。現在も、公表されているデータは2年前の学会発表時の内容に及ばない。

 

福島医大は、今年3月9日にフォーリン・プレスセンター(東京)で、「東京電力福島第一原発事故から6年、見えてきた福島県民の健康状態」というテーマで記者会見した際に、甲状腺検査の責任者である大津留晶教授が、5歳未満の子どもからは「現時点では甲状腺がんは検出されていない」と説明している。この時に福島県立医大は、事故時4歳の症例を把握しているはずなのに、なぜこのような説明になっただろうか。

 

3・11基金の崎山共同代表は、事故時5歳や5歳未満の人から甲状腺がんが見つかったことで、「放射線の影響は考えにくいという根拠が崩れてきているのではないか」と指摘している。

 

 

 

◆184人以外にも未公表の甲状腺がん〜事故当時4歳も

投稿者: ourplanet 投稿日時: 木, 03/30/2017 – 18:13

http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/2108 より転載

 

 

福島県民健康調査の甲状腺検査をめぐり、検査を実施している福島県立医大は30日、これまで公表しているデータ以外にも、甲状腺がんと診断されていた子どもが存在することを認め、ホームページに公表した。OurPlanetTVの取材によると、未公表の症例には、事故当時5歳未満の子が含まれており、検討委員会の議論にも影響を与えそうだ。

 

公表されていなかったのは、2次検査でいったん経過観察となり、その後、甲状腺がんと診断された患者のデータ。データを取りまとめている福島県立医科大はこれまで、穿刺細胞診で悪性または悪性疑いと診断された子どもは185人(うち1人は良性と確定診断)と発表してきたが、これ以外にもがんと診断された患者がいることを認めた。

 

医大の田中成省広報室長は、「保険診療へ移行後に見つかった甲状腺がん患者は、あくまでも一般の保険診療なので、センターでは把握していない」と述べ、データを公表してこなかったことについて、「県や検討委員会が決めたルールに従っているだけ」と釈明した。

 

 

2500人のデータを除外

福島県が今年2月20日までに公表したデータによると、2次検査で保険診療に移行し経過観察となっているのは、1巡目1,260人、2巡目1,207人、3巡目56人で計2,523人にのぼる。これら経過観察中の患者は、医療費助成事業である「甲状腺検査サポート事業」やインターネットによるケアサポート事業の対象者には含まれる一方、甲状腺がんデータを把握するという最も重要な事業の対象からは除外していた。

 

 

経過観察中の悪性腫瘍、2年前に議論

経過観察中に見つかった悪性腫瘍をめぐっては、2015年2月2日に開催された第5回甲状腺評価部会で議論になっている。当時、甲状腺検査を担当していた鈴木眞一教授は、「そういう症例があれば別枠で報告になる」と回答。「経過観察中に発見された悪性腫瘍」として扱われるとの認識を示していた。また保険診療部分のデータも、医大で経過を集積する必要があるとの見方を示していた。

 


(2015年2月2日 第5回甲状腺評価部会で鈴木眞一教授は「別枠で公表」と言及していた)

しかし、この会議の2ヶ月後に鈴木教授は退任。後任には、甲状腺がんの治療とは関わりのない内科医の大津留教授が就任。経過観察後に悪性と診断されるケースがありながら、特に対応することなく、2年もの間、データを発表せずにきた。鈴木教授の「別枠で報告する」との発言は撤回するのかという質問に対し、大津留教授からの回答は得られなかった。

 

2年前に、この点を質していた春日文子委員は「経過観察中に悪性と診断された方の情報が、検討委員会に報告されていないと聞き、驚いている。県民健康調査の結果、経過観察となり、その過程での診断なので、こうしたデータも当然、報告されるものと思っていた。医大もそう回答したと認識している。」と疑問を投げかける。さらに、「この検査の重要な目的の一つに、甲状腺がんの発生を迅速に、なるべく正確に把握することがある。そのためにも、保健診療に移行した後の症例も、検討委員会において公表すべき。」と指摘。検討委員会で議題にする必要があるとの考えを示した。

 

未公表データに5歳以下患者の疑い〜不完全な報告で方針決定か

OurPlanetTVの取材によると、未公表の症例には、事故当時4歳の子どもが含まれている。事故当時4歳の男児は、福島県民健康調査の甲状腺検査で精密検査が必要とされたが、経過観察と診断。その後、穿刺細胞診で悪性の疑いがあると診断され、すでに手術を終えている。悪性と診断されたのは、2015年だという。

 

「県民健康調査」結果を評価している「検討委員会」は昨年3月、「中間取りまとめ」を公表し、小児甲状腺がんの多発は「放射線の影響とは考えにくい」と結論づけた。その理由の一つが、「事故当時5歳以下からの発見はない」というものだった。しかし、公表されていない症例の中に、事故当時5歳以下の子どもがいれば、不完全なデータによって、検査の方針を決めていることとなる。

 

参考リンク
中間とりまとめ(2016年3月)
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/158522.pdf

関連記事、動画
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