*この記事は、ほうきネット代表の中村隆市が2015年に各地で行った講演から抜粋したものです。
◆チェルノブイリ原発事故のあと増えた病気
チェルノブイリ原発事故の後、ベラルーシやウクライナで病気になった子どもたちの医療支援に関わった私は、原発事故の6年後(1992年)から医療機器や薬を届けるために度々現地を訪問しました。事故から6年も経っていたので、病気も治まってきているのではないかと思っていたのですが、実際にはどんどん病気が増え続けていました。チェルノブイリ原発事故の後、甲状腺がんが急増したことはよく知られていますが、その他にも様々な病気が増えていました。
特に、心臓や血管の病気(循環器系疾患)で亡くなる人が急増しました。セシウムが体内に入ると特に「心筋」に蓄積して心臓病が増えますが、血液中にも入り込み、血液の病気も増えます。さらに、巡回しながら放射線で血管の内表面を覆う「内皮細胞」を破壊するため血管の病気も増えます。循環器系疾患が最も激増した地域の一つが北ウクライナでした。汚染がひどい地域では、同時に複数の病気にかかる多重疾患の人が多くなりました。
(NHK ETV特集 チェルノブイリ原発事故・汚染地帯からの報告 第2回 ウクライナは訴える)より
チェルノブイリと同様に原発事故後の東北や関東でも循環器系疾患(心臓や血管の病気)が増えています。福島県の循環器系疾患と心疾患、脳血管疾患の死亡率は、原発事故前より増加し、全国平均の1.35倍~1.45倍になっています。
福島県だけでなく周辺県の心疾患死亡率も高くなっています。
*データソース(政府統計)
福島県の心疾患死亡率が、原発事故前の2010年度の全国8位から2011年度は全国1位になっています。続いて、福島に近い宮城と茨城の死亡率が高くなり、そして、岩手の心疾患死亡率も全国6位から4位になっています。これは心臓病の発症率ではなく「死亡率」です。
心疾患の中でも特に目立つのが「急性心筋梗塞」の死亡率で、この4年間で全国平均の2.0倍から2.5倍に増えています。(全国1位) 全国平均より2.5倍も多いというのは異常なことです。
*データソース(政府統計)
原発事故の前から福島に心臓病が多い理由の一つは、塩分の摂り過ぎなど生活習慣病もあるかもしれませんが、塩分摂取が多い東北の中でも、特に福島県の心臓病が多い理由には、放射能の問題もあると思います。それは、福島には原発が10基もあったことと、明らかになっている「小さな事故」だけでも沢山あるからです。しかも、日本で最初の臨界事故まで起こしています。それを29年間も隠ぺいしていました。東京電力は隠ぺいやデータの改ざんを繰り返しやってきました。ですから、過去に福島の10基の原発が、いつ、どれだけの放射性物質を放出しているかは分かりません。――そういう企業が営業を続けられるということが、一般社会ではあり得ないことですが、電力会社の場合はそれが有りなんですね。
先ほど、原発は事故が起こらなくても原発の周囲は病気が増えてるという話をしましたが、福島にある10基の原発は、それに加えて「小さな事故」もいっぱい起こしてきたので、心臓病が増えてもおかしくないと思います。
*データソース(政府統計)
これは、慢性リウマチ性心疾患の死亡率の全国平均と福島県とを比べたものですが、福島は原発事故の翌年から急増して全国平均の約3倍も死亡率が高くなっています。(全国1位) これは、もう一度言いますが、発病率ではなく死亡率です。
ここまでは心疾患の死亡率ですが、「DPC対象病院※」の治療実績を見ると、狭心症と慢性虚血性心疾患の治療数・手術数も年々増えています。
※ DPC(Diagnosis(診断) Procedure(手順) Combination(組み合わせ))の略。 DPC対象病院とは、厚生労働省より急性期の病院として必要な条件を満たしている優れた病院に認められている。
*データソース「治療数・手術数」
そして、福島だけでなく、東北、関東で心筋梗塞が増えています。
<心筋梗塞>原発事故前年から4年間の全国医療機関 診療実績結果(2010年度〜2013年度)
(みんな楽しくHAPPYがいい)より
こうした心臓病だけでなく、さまざまな病気が増加傾向にあります。
チェルノブイリで増えた白内障や血管の病気、貧血などが福島県でどうなっているか、DPC対象病院の治療実績で調べてみました。
*白内障、水晶体の疾患(1845→2816→3366→3687)
2.0倍(2013年/2010年)
2.5倍(2012年/2010年)
白内障、水晶体の疾患は2倍になり、静脈・リンパ管疾患は2.5倍になっています。
貧血のデータは「治療数・手術数」と「死亡数」の両方が見つかりましたが、両方とも増加傾向にあります。
甲状腺に近い扁桃腺や喉の病気も激増しています。
福島県は5.2倍(2012年/2010年)206→318→1071
栃木県は10.0倍(2012年/2010年)69→288→707
こうした病気以上に甲状腺の病気が急増しています。
甲状腺がんの急増
放射能汚染数値が高い地域に甲状腺ガンが多発していることは、下の汚染地図(左)と甲状腺ガンの発生地図(右)を見ればよくわかります。
*左:放射性セシウムの蓄積量 朝日新聞より *右:福島県市町村別の甲状腺がん発生地図
この甲状腺ガン発生地図(右上と下は同じ地図)は、 2011年10月~2014年4月までの1巡目の検査=先行検査の「悪性ないし悪性疑い」112人の発生地図ですが、赤色が濃い市町村ほど、甲状腺ガンの発生率が高いことを示しています。逆に汚染数値が低い会津地方は、発生率が低くなっています。
◆甲状腺がん悪性・悪性疑い152人〜福島県民健康調査
東京電力福島第一原発事故後、福島県が実施している「県民健康調査」の検討委員会が30日、開催され、当時18歳以下だった子どもを対象に行っている甲状 腺検査の結果などが公表された。検査を実施している福島県立医大によると、2011年から今年9月30日までの間に、152人の子どもが甲状腺がんの悪性 または悪性疑いと診断された。今回の検討委員会では、2011年から2013年までの先行検査(1巡目)については口頭のみでのデータ公表となった。福島県立医大の大津留晶教授の説明 によると、先行検査で、甲状腺がんの悪性または悪性疑いと診断された子どもは、良性結節と確定診断を受けた1人を覗き、1人増の115人となった。また手術を終えて甲状腺がんと確定した子どもは2人増え100人となった。また本格調査(2巡目)で、悪性または悪性疑いと診断された子どもは、新たに9人増えて39人となり、そのうち15人が手術を終えて、甲状腺がんと確定した。穿刺細胞診で悪性と診断された39人のうち、先行検査でA判定だった子どもは37人で、前回A1と診断された19人にはまったく所見はなかったという。子どもたちの年齢は、事故当時6才から18才で、摘出された甲状腺がんは最大30.1ミリだった。
◆2巡目の甲状腺検査 新たに9人が「甲状腺がん」と診断
(福島2015年11月30日)FNNLocal
新たに9人が、「甲状腺がん」と診断された。甲状腺検査は、福島第1原発事故当時に18歳以下だった子どもなど、およそ38万人を対象にしていて、2014年4月からは、2巡目の検査が行われている。
専門家による30日の検討委員会では、9月末までに検査が確定した、およそ18万2,500人の結果が公表され、新たに9人が「甲状腺がん」、5人が「がんの疑いがある」と報告された。
1巡目とあわせると、「甲状腺がん」と確定したのは115人、「がんの疑いがある」と診断されたのは39人となった。
検討委員会の星 北斗座長は、「放射線の影響は考えにくい」としている。
ほとんどのマスコミは、星座長の発言を引用し「放射線量がチェルノブイリに比べて低いことと、小さな子どもたちの発生が見られないということから『放射線の影響は考えにくい』」と報道しているなかで、北海道新聞が重要なことを書いています。
<1 巡目検査の結果について、福島県は、症状がなくても検査することでがんの発見確率が高まる「スクリーニング効果」によると説明してきたが、2巡目でも新た な発見が相次いでいることについて、清水一雄・甲状腺検査評価部会長(日本甲状腺外科学会前理事長)は「多発していることは事実だ」と認めた。検討委の星 座長は「チェルノブイリと比べて福島の被ばく線量は極めて少なく・・・と説明し「放射線の影響とは考えにくい」と従来の見解を繰り返した。これに対し、委 員などから「内部被ばくを考慮できていない」「チェルノブイリより線量が低いと明確に示せるのか」などと疑問視する声が出た。専門家の間でも、福島事故と 甲状腺がんの「多発」の因果関係をめぐる評価が割れていることが浮き彫りになった>
(記事全文)
これほど多くの子どもたちに甲状腺がんが発生していることについて、政府や福島県は「がんが見つかった理由は、症状のない人も含めて精度の高い検査を行っているため」であり、将来発症するがんを早めに見つけている「スクリーニング効果」に過ぎない、「原発事故の影響とは考えにくい」と主張していました。しかし、2巡目の「本格検査」になっても甲状腺がんが増え続けていることで、「スクリーニング効果」では説明できなくなっています。
福島の子ども、甲状腺がん「多発」どう考える 津田敏秀さん・津金昌一郎さんに聞く
(2015年11月19日 朝日新聞)から抜粋
■原発事故の影響、否定できぬ 津田敏秀さん 岡山大大学院教授(環境疫学)
福島県の甲状腺検査は1巡目のデータ解析でも、国立がん研究センターの統計による全国の19歳以下の甲状腺がんの年間発生率と比べ、検査時点でがんと診断された人の割合は県央部の「中通り」で約50倍、県全体でも約30倍の「多発」となる高感度の機器で一斉に調べれば自覚症状のない隠れたがんも見つかるため、それを補正して比較した数値だ。一斉検査での「増加」は過去の報告の分析でも数倍程度。福島は桁が違う。多発は県の検討委員も認めざるを得なくなってきた。
「生涯発症しないような成長の遅いがんを見つけている」という「過剰診断」説もある。だが、これほどの多発は説明できない。過剰診断説を採ると、100人以上の手術が不適切だったことになってしまう。県立医大の報告では、同病院で手術を受け、がんと確定した96人のうち4割はがんが甲状腺の外に広がり、7割以上がリンパ節に転移していた。
逆に、多発と原発事故との関連を否定するデータはない。事故直後に放射線量が高かったと見られる県央部や原発周辺自治体ごとのがんの人の割合、事故から検査までの期間をふまえて解析してみると、被曝(ひばく)量と病気の相関関係、つまり「量―反応関係」も見えてくる。
県は、チェルノブイリ原発事故では4~5年後から乳幼児で増えたのに対し、福島では10歳以上に多いなど、違いを強調する。しかし、ベラルーシやウクライナの症例報告書を見ると、チェルノブイリ事故の翌年から数年間は10代で増えているなど、福島と驚くほど似ている。
福島で放出された放射性ヨウ素はチェルノブイリの10分の1とも言われるが、いかに低線量でも人体に影響があるとの考え方は国際機関に認められている。人口密度が高ければ影響を受ける人は増える。福島や北関東の人口密度はチェルノブイリ周辺の何倍もあり、多発の説明もつく。
予想される甲状腺がんの大発生に備えた医療体制の充実が必要だ。甲状腺がんは初期の放射性ヨウ素による内部被曝だけが原因ではなく、他の放射性物質からの外部被曝の影響を示す研究もある。甲状腺がんだけでなく、すべてのがんへの影響を考えれば、妊婦や乳幼児には保養や移住も有意義だ。放射線量が高い「避難指示区域」への帰還を進める政策は延期すべきで、症例把握を北関東にも成人にも広げる必要がある。
県の検討委は、甲状腺がんは成長が遅いというが、子どもの場合の実際のデータは違う。 県の検査でも、1巡目で見つからなかったがんやがんの疑いが、2巡目で25人(※9月30日現在39人)も見つかった。すべてが1巡目での見落としではな いだろう。「放射線影響は考えにくい」とは言えない。 科学の役割は、データに基づいて未来を予測し、住民に必要な施策を、手遅れにならないように提案していくことにある。
******朝日新聞の記事の転載はここまで******
※甲状腺がんの多発は「過剰診断によるものだからスクリーニング検査は止めた方がいい」と主張する「専門家」もいますが、昨年8月に開かれた日本癌治療学会で、甲状腺がんと確定した子ども57人のうち県立医大が手術した54人について、8割超の45人は腫瘍の大きさが10ミリ超かリンパ節や他の臓器への転移などがあり、診断基準では手術するレベルだったこと。そして、2人が「肺にがんが転移」していたことを報告しています。――もし、甲状腺検査をしていなかったら、この子たちはどうなっているのでしょうか? そのヒントになる記事があります。
原発事故当時、中学3年生だった女性が取材に応じています。
◆福島原発事故後に甲状腺ガン 20歳女子の悲痛な日々
2度の手術も、リンパや肺に転移。弟2人も甲状腺にのう胞が…
(2015年9月25日号 FRIDAY)から抜粋
取材・文/明石昇二郎(ジャーナリスト)
「小児甲状腺ガンという診断をうけたときは、『えっ!? なにそれ』という感覚でした。それまでなんの自覚症状もなかったんですから。ガンがリンパや肺にも転移し、その後2回も手術を受けることになるとは思っていませんでした」
こう明かすのは福島県中部(中通り地方)に住む、20歳の女性Aさんだ。
8月31日の福島県の発表によると、11年3月の福島第一原発事故発生当時18歳以下だった県民36万7685人のうち、甲状腺ガン、またはその疑いがあるとされた人は137人。発症率は10万人あたり37.3人で、通常の100倍近くも高い。とくに左ページ下の地図で示した「汚染17市町村」の発症率は 10万人あたり42.9人で、ガンが見つかったAさんも同地区内で悲痛な日々を過ごしている――。
東日本大震災が起きた当日は、Aさんの中学校の卒業式だった。原発事故直後の3日間は外出をひかえていたものの、その後は通常の生活を続けていたという。 「県立高校への進学が決まっていました。事故から1週間後には、制服を注文するため母と一緒にJR福島駅前にあるデパートに出かけたんです。高校入学をひ かえ た子どもたちが押しかけ、デパートは超満員。建物の外にまで行列がのび、私たちも30分ほど屋外で待たされました」(以下、ことわりのない発言はAさん)
当時は県内の空間放射線量が非常に高く、福島市内では毎時約10マイクロシーベルトを記録していた。そうした事実を知らされず、Aさんはマスクをつけずに外出していたのだ。
通い始めた大学も再発で退学
翌 年の夏休み。自宅近くで行われた県の甲状状検査で、Aさんに異常が見つかる。県からは「福島県立医大で精密検査をお願いします」との通知が届く。「ノドが 少し腫れていましたが、自分で気づかなかった。県立医大で2回目の精密検査を受けたときに医師から『深刻な状態だ』と告げられ、ガンであることがわかった んです。高校3年の夏休みに手術を受け、甲状腺の右半分と転移していた周囲のリンパ組織を切除しました」
だが、これで終わりではなかった。高校で美術部に所属していたAさんは「ウェブデザイナーか学芸員になりたい」という夢を持ち、卒業後、県外の芸術系大学に進学。入学後の健康診断で「血液がおかしい」との結果が出たのだ。「夏休みに帰郷し、県立医大で検査を受けると『ガンが再発している』と言われたんです。治療に専念するため、通い始めたばかりの大学も退学せざるをえませんでした。10月の再手術では、残っていた左半分の甲状腺とリンパ組織を切除。甲状腺は全摘出することになったんです。肺への転移も判明し、術後しばらくはかすれた声しか出ず、キズの痛みをこらえながらリハビリを続けていました」
生理不順にもなりホルモン剤を投与。今年4月には肺がん治療の ため「アイソトープ治療」も受けた。放射性ヨウ素の入ったカプセルを飲み、転移したガン細胞を破壊するという療法だ。「カ プセルを飲む2週間ほど前から食事制限があり、大好きなお菓子も食べられません。飲み物は水だけ。カプセルを飲んだ後も3日間の隔離生活を強いられます。 強い放射能のため周囲の人が被曝する可能性があるからです。お風呂に入るのも家族で最後。医師からは『トイレの水も2回流すように』と言われました」
Aさんは4人兄弟の長女で、弟2人も「甲状腺にのう胞がある」との診断を受けている。だが県立医大の担当医は、発病と原発事故との因果関係は「考えにくい」としか言わない。
疫学と因果推論が専門の岡山大学大学院、津田敏秀教授が解説する。
「もっとも空間線量が高かった時期に、福島県では県立高校の合格発表が屋外で行われていました。生徒も線量の高さを知らされず無用な被曝をしていた。Aさんが暮らしている場所は、住民が避難していない地域で最大レベルの甲状腺ガン多発地域です。Aさんのケースも原発事故の影響である確率が非常に高い」
現在、Aさんは小康状態を保っているが、手のしびれや動悸が起きることもあり、月に一度の血液検査を継続している。
************** 記事の転載は以上 **************
ほとんどのマスコミが「甲状腺がん悪性・悪性疑い152人」という数字を報じていないため、一般には、福島県の子どもたちが今、何人甲状腺がんになったのか知られていません。
下のグラフのように原発事故の翌年から1年ごとに比較すると、その異常な増え方がよくわかります。(2015年8月分まで)
ここまでは、若い世代を見てきましたが、甲状腺がんは大人世代にも全国的に増えてきています。
◆甲状腺がんは子どもだけでなく、大人にも増えている
大人も含む「甲状腺がんの手術数」を原発事故前の2010年と事故後の2013年を「DPC対象病院」で比較すると、九州・沖縄の甲状腺がん「手術数」の増加は 1.07倍の増加ですが、南関東では 1.52倍、北関東では 1.83倍、東北では 2.18倍、そして 福島では 2.78倍に増加しています。(福島県の2.78倍には、子どもたちのスクリーニング検査の数字は入っていないようです)
九州・沖縄 1.07倍<南関東 1.52倍<北関東 1.83倍<東北 2.18倍< 福島 2.78倍
東北地方の「甲状腺がんの手術数」は、以下のように増加してきています。
*甲状腺の悪性腫瘍 元データ(2010年度〜2012年度 2013年度)
関東地方の「甲状腺がんの手術数」は、以下のように増加してきています。
九州地方の「甲状腺がんの手術数」は、以下のように推移してきています。
(大分県には、甲状腺がん治療実績で全国2位の野口病院がある)
九州、近畿、関東、東北は、それぞれ次のように推移しています。
※追記…最新情報は以下に掲載されています。
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