小児甲状腺がんの多発は 「スクリーニング効果」ではない

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甲状腺がん がん疑い含む合計 年次推移

福島原発事故から4年半ほど過ぎた8月31日、福島県は、原発事故を受けて実施している福島県民健康調査の専門家会議を開催し、新たな甲状腺がんデータなどを公表。甲状腺がんと確定した子どもが104人、がんと疑われる子ども33人はとなり、合計137人となった。

福島県の小児甲状腺がん 有病数の年次推移 1巡+2巡目の合計数

 

福島の子どもに多発している甲状腺がんは「原発事故による被ばくの影響とは考えにくい」と政府や福島県が主張する中で、多くの人に読んでほしい非常に重要な記事を紹介します。

多発する福島小児甲状腺ガンに関する四つの「事実」に対する疑問:『福島の小児甲状腺ガンについての公式見解を読み解く』 ピアース・ウィリアムソン

(2014年12月8日  アジアパシフィックジャーナル・ジャパンフォーカス掲載論文)から抜粋

福島県立医科大学は2011年10月9日、福島県内の2011年3月11日時点で18歳以下だった子どもたち368,000人の甲状腺を検査する2段階の調査を開始した。第1段階は「先行検査」であり、「高レベル被曝地域」の住民から実施しはじめ、やがてすべての市町村に広げていった。当初の計画では、事 故から3年後に始めることになっていたが、親の不安に応えて検査を前倒ししたのである(注1)。

福島医大は2014年4月、380,000人の未成年者を対象に第2段階の「本格調査」を始め、この時から2011年3月11日の時点で胎児だった子どもも対象に含めた。該当する子どもは20歳になるまで2年に1度、その後は5年ごとに生涯、検査を受けることになっていた。検査は高性能の超音波機器を使う前例のない規模のものである。

 

本稿執筆の時点では、56名が甲状腺癌、1名が良性腫瘍、47名が癌の疑いと診断されている。これで、検査を終えた296,026名の未成年者のうち、合わせて103人がほぼ確実に癌であるということになる(注3)。これまでのところ、当初に癌の「疑い例」とされていた子どものほとんどすべてが、後に悪性と診断されている。

甲状腺検査

          甲状腺検査

「通常」であれば、小児甲状腺癌の発症率は100万人に1人か2人である(注4)。しかし、このデータにあてはまるのは、症状があって、医者にかかる子どもだけである。福島医大が症状のある症例のデータを公表していないけれど、ふつう甲状腺癌は進行が遅いので、癌が潜伏したまま、生涯の遅い時期まで問題を起こさないケースを福島県の検査が見つけているのかもしれない。そこで、見つかった癌は福島第1原発由来の放射線被曝が原因なのか、そうではなくて、医師たちがハイテク装置を駆使して見つけただけなのか、熾烈な論争が繰り広げられている。福島医大の立場は、その最も名の売れた顔、山下俊一、鈴木真一両教授が代弁する、被曝の影響とは考えにくいというものである。

山下俊一教授

山下俊一教授

山下俊一は、被爆二世にして、甲状腺癌の「権威」である。最近まで日本甲状腺学会の理事長を務め、1990年代はじめにチェルノブイリで甲状腺癌に取り組んでいた。山下は2011年7月、福島医大の副学長および県民健康管理調査を統括する放射線医学県民健康管理センターのセンター長に就任するために長崎大学を休職 し、同年3月の災害時に福島医大の助言役をするとともに、福島県放射線健康リスク管理アドバイザーにも就任していた。また、放射線緊急時医療準備・支援 ネットワークWHO協力センター長も務めている。山下は福島に移った時から、ニコニコ笑っている人に放射線の影響が来ないことが動物実験でわかっていると か、毎時100マイクロシーベルまで大丈夫などと公言するなど、なにかと物議をかもす人物である(注5)。

 

山下は2013年6月、福島県民健康調査検討委員会の公開審議のお膳立てをする「秘密会」(後述)の存在が暴露されたあと、他の3名とともに福島医大の職を辞した。山下はその翌月、子どもたちにヨウ素剤を処方しないようにと事故の少しあとに福島医大に助言したのは間違いだったと認めた(注6)。もう一方の 中心人物、鈴木真一は甲状腺外科医で福島医大教授、スクリーニング[一斉検査]の実施を担当し、検査手順実演会に出たり、福島県民向けの説明会を開いたり してきた(注7)。「秘密会」の実態が発覚するまで、鈴木もそれに関与していた。

鈴木真一教授

鈴木真一教授

山下と鈴木は示し合わせて、彼らの放射線被曝の関連否定論を支える4つの「事実」を挙げる。

第1に、検査の前例のない規模が、見つかる癌を説明すると彼らは考える。これが、いわゆる「スクリーニング効果」である(注8)。鈴木と山下は第2に、チェルノブイリ事故後、少なくとも4年後まで甲状腺癌が現れなかったので、判断するのは早過ぎると述べる(注9)。福島県の当初の計画では3年後まで検査しないことになっていたのも、これが理由である(注10)。

第3に、福島の放射線レベルはチェルノブイリより低いと彼らは主張する。

第4に、チェルノブイリ事故後の甲状腺癌の主因は、汚染食品、とりわけミルクの摂取だったという。日本は対照的に、迅速かつ有効な食品規制を実施した(注11)。

 

さらに、二人揃って健康調査の目的は県民に安心してもらうためであると発言(注12)し、問題ないという予断的な結論をあからさまに喧伝していた。だから、山下と鈴木にとって、放射線の本当のリスクは心理的なものである。この姿勢は、調査が「問題ない」という前提に立って進められているとして、福島県民の批判を巻き起こした(注13)。福島大学の経済学者、清水修二教授は2014年5月19日に開かれた福島県の検討委員会で、この姿勢に公然と異議を唱えた。清水は、100ミリシーベルト(放射能放出即時の結果)以下では影響がないという前提で健康調査が進められているが、100ミリシーベルトを超えるような被曝をした住民はいないので、結論が出てしまっていることになり、「健康調査をしなくてもいいということに論理的になってしまうんじゃないかというふうに思う」と主張した(注14)。

 

したがって、問うべきことは――山下と鈴木が断言する「事実」が、放射線被曝と福島で見つかっている甲状腺癌との関連に対する彼らの全否定を裏付けるほど 強固なものなのか? 筆者はそうではないと主張し、4つの「事実」のひとつひとつが懐疑的に見られるべきであることを示したい。「それに替わる議論」が提 示する「事実」を挙げ、専門家たるもの、もっと慎重になる必要があると考える。

鈴木や山下のような専門家は科学的中立性を唱えるかもしれないが、その実、論法が非科学的で、中立からほど遠い。科学の手順は、不十分な情報しかない状況では、判断を控え、裏に潜む知識不足を隠すために結論を誇らしげに開陳してはならないと要請しているはずである。しかも、時期尚早な結論の喧伝は、非政治的どころではない。日本の国は原発を再稼働する公然たる政策を掲げている。

病気の子どもたちと原子力の関連が、確定までされなくとも、可能性として公的に認められるだけで、政府の方針が、国家規模の災害を招いたテクノロジーの再興に大半が反対している日本国民の支持を勝ち取るのが明らかにもっと困難になる。

 

事実1:スクリーニング効果

逆流

TV朝日は、キエフのウクライナ内分泌・代謝研究センター所長、ミコラ・トロンコ博士に取材した。番組は触れなかったが、トロンコは1995年に誉高いネイチャー誌に掲載された論文で、甲状腺癌の問題を分析していた(注17)。その当時、公に認められていた医学の見識は、ヒロシマ・ナガサキ原爆被爆者から得られたデータにもとづくもので、甲状腺癌は被曝後8年たつまで現れないとされていた。8年より前に見つかった癌は、「スクリーニング効果」の結果とし て、つまり、大規模な検診の結果、疾病が見つかる比率が上昇するという事実の表れとして、ないものとされた。トロンコは振り返って、自分も8年より前の症 例はありえないと考えていたという。彼はいま、自分が間違っていたと考えている。だから、京都大学の核工学教授、今中哲二が番組で指摘したように、留意しておくべき一番めの要素は、「スクリーニング効果」論はチェルノブイリ事故後に作られたものであり、後に間違いであると判明したということである。
・・・WHOのキース・ ベーヴァ―ストックが「癌がこれほど早く出現したことに、とりわけ驚いていた」と伝えた。記事は彼の「通常であれば、固形癌が現れるのは(放射線に)被曝 してから10年かそれ以上たってからだとわれわれは予想している」という発言を紹介している。同じ日の英紙インディペンデントは、ベーヴァーストック博士が「これほど早いとは、予想外だ。これは、なにかもっと大変なことが始まろうとしている兆候かもしれないし、あるいは母集団のなかに特に感受性の強い下位 集団が存在しているということかもしれない」と感想を述べたと伝えた(注22)。ニューヨーク・タイムズ紙とインディペンデント紙は揃って、研究者たちが 腫瘍の「侵襲性」にも驚いていたと書いた。ベーヴァ―ストックは6年後に振り返って、次のように語った――「1992年、小児甲状腺癌の頻発として、チェルノブイリ事故の影響が最初に報告されたとき、放射線専門家の内輪では、懐疑論で迎えられた。懐疑論の一部は疑う余地なく科学的だった(「ヨウ素131の発癌性は低い」)が、一部はそうでなかった…これは科学的直感なるものが誤解を招きうることを諭す教訓話である。このような論争さえなければ、救援の手をもっと早く差し伸べることができただろう(注23)
ミコラ・トロンコ

ミコラ・トロンコ

だが、レトリックが進歩しないにしても、知識は28年前から進歩した。たとえば、アメリカ疾病管理予防センターが9・11攻撃の被災者を支援するために設 立した世界貿易センター保健プログラムによって、人の甲状腺癌は「低レベル電離放射線」被曝後4年より早く発症するのかもしれないということが認知された。ジョン・ハワード医学博士は2013年5月1日付け改訂版報告で、甲状腺癌の「最短潜伏期間」を2年半と記録している。この結果は、米国原子力規制委員会などの統計モデルにもとづいている。「小児癌」は「20歳未満の人に生じる、あらゆるタイプの癌」と定義されており、これに甲状腺癌も含まれるので、 全米科学アカデミーの文献にもとづき、「最短潜伏期間」は1年と記載されている(注24)。

 

さらに、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)の2013年報告(紛らわしいことに公表は2014年4月)に対する、ノーベル受賞団体、核戦争防止国際医師会議(IPPNW)のいくつかの支部が2014年6月に公表した批判的分析に、「いくつかの国際研究では、また、小児甲状腺結節の悪性率は、(電離放射線被曝の結果である場合)成人よりも2〜50%高い」と特筆されている (注 26)。

じっさい、さらに最近の2014年、未成年期にチェルノブイリ由来のヨウ素131に被曝したベラルーシ国民12,000人を対象にした調査(査読論文誌 キャンサー10月号に掲載)は、放射線に起因する甲状腺癌の攻撃的な特性を立証した。論文の筆頭著者である医師、疫学・生物統計学部(カリフォルニア大学 サンフランシスコ校)の准教授、リディア・バブロツカは、福島の未成年者を検査する案を支持し、児童期または青年期にフォールアウトで被曝した人たちは 最高のリスクを負っており、これらの癌が悪性であり、実に速く拡散しうるので、おそらく甲状腺癌のスクリーニングを定期的に実施すべきである…臨床医師たちは放射線関連腫瘍の悪性さに気づいているべきであり、リスクの高い人たちを綿密に監視すべきである」と書いた。

 

「スクリーニング効果」に縛られる治療

考察の前提として、鈴木真一が断言するように、甲状腺癌が見つかったのは「スクリーニング効果」の結果であるとすれば、このことから、不必要だった手術という妖怪が呼び出される。

2014年8月28日、鈴木は第52回日本癌治療学会学術集会で講演をおこなった。彼は、54例の手術のうち、45例で直径10ミリ超の腫瘍 またはリンパ節か他の臓器への転移があり、うち2例は肺への転移だったと明かした。残りの9例のうち、7例は[腫瘍が]気管に近接し、2例は本人や家族の意向に応じたものだった。しかし、鈴木はまたもやリンパ節転移の症例数と症状のある患者の数の公表を拒んだ(注33)。

 

どうやら鈴木は、キャッチ22[あちらを立てれば、こちらが立たず式のジレンマ状況]に陥っているようだ。鈴木が言い張るように「スクリーニング効果」のせいで検出されたに過ぎない、症状のない甲状腺癌の子どもたちに不必要な手術をしているのか、あるいは、その子どもたちに症状があり、スクリーニングをしなくても、ほどなく受診しに来るはずなので、「スクリーニング効果」説明の真っ赤なウソが露呈するのか、そのどちらかである。もっと単純明快にいうなら、 「スクリーニング効果」であれば、手術するべきではない。手術するべきなら、「スクリーニング効果」ではない

 

ところで、2011年10月12 日付け毎日新聞に、山下俊一が「現時点で異常が見つかる可能性は低いが、不安を和らげたい」と語った発言が引用されている(注35)。これでは、「スクリーニング効果」に期待されるものとまるっきり合致しない

「統計的有意性」と「スクリーニング効果」に反論する

「スクリーニング効果」が福島県と福島医大が掲げる公式見解の中核を成していたが、岡山大学の医師で疫学者、津田敏秀教授は2014年7月16日、環境省の第8回「福島第1原発事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」で、これに異議を唱えた(注36)。

 

津田敏秀津田敏秀

環境省の専門家会議は影響を判断するにあたって、原因(すなわち、被曝線量レベル)を強調していると論じた。これは研究室の手法であり、原因に関連する情報が不足している現場では役に立たない。その結果、明白な原因の欠如のため、影響が否定されている。アウトブレイク[感染症にかかった人間、 またはその他の生物の小集団]疫学の国際標準手順は対照的に、影響(すなわち、疾病率)に注目して、早まった否定と手遅れの医療対応を避けている。
津田は、福島で入手可能なデータがすでに局地的なクラスター[統計学で属性を共有する個の集団の意]の存在を示しており、これを「スクリーニング効果」で説明し切れないと言い切った。したがって、当局は福島県内外で住民の一斉健康診断を早急に実施することで、時間の経過とともに拡大する疾病急増に備え、被曝を最小限に抑えるために今以上のことをなし、妊娠中の女性や未成年者など、弱者集団の放射線防護対策に資金を手当し、福島県内のこれら弱者集団の放射線レベ ルの低い地域への疎開を考慮し、定期的に放射線レベルを広報し、住民と協力して信頼関係を構築するべきである
津田はさらに、チェルノブイリのデータによれば、甲状腺癌が単に子どもたちだけでなく成人にとっても深刻な問題であることが示唆されており、100ミリシーベルト未満の放射線レベルの被曝(たとえば、小児科CTスキャン、背景放射線、航空機搭乗員)でも、癌が統計的に有意に増加していることを示すデータが数多くあると指摘した。妊娠中の女性は特に弱いのに、福島では、引き上げられたレベルの放射線に被曝しつづけている津田の意見に対し、他の会議出席者らは批判をたっぷりと浴びせ、とりわけ鈴木元(UNSCEARの委員)、それに長崎大学で山下の先輩にあたる専門家会議の座長、長瀧重信が反発し、長瀧は津田を挑発して、「がんが増えているということが、ここの委員会の結論になると、大変なことになる!」と言い放った。長瀧はその後にも、会議の目的は被曝線量レベルに注目することだと頑固に言い張り、津田の意見を退けた。

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