福島の子の甲状腺がん、2人増え154人に
(2017年10月23日20時34分 朝日新聞デジタル)
福島県は23日、東京電力福島第一原発事故時に18歳以下だった約38万人を対象にした甲状腺検査で、4~6月に新たに2人が甲状腺がんと診断され、計154人になったと発表した。がんまたはがんの疑いのある人は、5人増の計194人となった。同日、県の検討委員会に報告した。検討委は「これまでのところ被曝(ひばく)の影響は考えにくい」としている。県は、約3カ月おきに最新の検査結果を発表している。
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福島第1原発事故 甲状腺がん診断、2人増え154人に 福島県民健康調査
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甲状腺検査は事故時、県内に住んでいた子どもを対象に11年から開始。2巡目から事故後1年間に生まれた子どもを加え約38万人を対象にした。検討委員会では検査で経過観察となった人が、その後に医療機関で甲状腺がんと診断されても、県が把握できず、患者数に反映されない仕組みについても取り上げられた。【曽根田和久】
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福島の小児甲状腺がん194人に〜手術は154例
記者会見の様子
東京電力福島第一原発事故後、福島県が実施している「県民健康調査」の検討委員会が23日に開催され、事故当時18歳以下だった福島県民36万人に実施している甲状腺検査の新たなデータが公表された。それによると、3巡目の検査で、悪性または悪性疑いと診断された子どもは、前回の4人より3人増え7人となった。1巡目から3巡目をあわせた数は甲状腺がんの悪性または悪性疑いが193人。手術を終えた人は2人増え、154人が甲状腺がんと確定した。
座長は引き続き星北斗氏
今回の検討委員会は、運営要項に定められている時期よりも2ヶ月遅れで開催された。委員改選が行われ、副座長だった清水修二福島大学名誉教授と弘前大学の床次眞司教授、福島病院協会の前原和平が退任し、井上仁福島病院協会会長、弘前大学の柏倉幾郎副学長、大阪大学の高野徹講師、福島大学の富田哲教授、あいち小児保健医療総合センターの山崎嘉久副センター長が就任。2011年5月の発足当初わずか8人だった委員は17人へと倍増した。
なお、当初から委員を継続しているのは、量子科学技術研究開発機構執行役の明石真言氏、放射線影響研究所の児玉和紀主任研究員、福島県医師会の星北斗副理事長の3人。互選で選出する座長は委員の間で意見は出ず、事務局をつとめる県の指名で、2013年6月から座長を務めている星北斗氏に決まった。
この日は冒頭、国際医療福祉センタークリニックの鈴木元院長が、環境省から委託を受けている住民の線量評価に関する研究経過を約1時間にわたって報告。1歳児の甲状腺等価線量の平均値は、国連科学委員会「2013年報告書」の値の7%〜69%程度の範囲にあり、全ての地域で40mSv未満であると説明したが、その根拠については回答を避けた。
鈴木元氏は、安定ヨウ素剤の服用基準を100ミリシーベルトと決定した原子力施設等防災専門部会「ヨウ素剤検討会」の元委員。鈴木氏らがヨウ素剤の投与基準を議論した2002年の2年前、WHOでは、チェルノブイリ原発事故による小児甲状腺がんの過剰発生を受け、18歳以下の子どもに対する安定ヨウ素剤の投与指標を100ミリから10ミリグレイに変更していた。このため、同検討会でもWHOの基準が配付されたものの、鈴木氏をはじめ、長崎大学の山下俊一氏や放射線医学研究センターの明石真言氏らが100ミリを主張。福島第一原発事故でも、その投与基準に基づき、一部の自治体を除き、子どもたちに安定ヨウ素剤が投与されなかった経緯がある。このため、今月18日に開かれた「脱被曝子ども裁判」第12回口頭弁論において、原告から国の防災指針について厳しい追及があったばかり。
鈴木氏は環境省の「住民の健康管理のあり方に関する専門家委員会」においても、福島原発事故による健康影響を強く否定。京都の原発賠償訴訟などでも、原告から提出された専門家意見書に反論し、福島原発事故による健康影響は起きないと主張している専門家の一人である。甲状腺がんが過剰発生した場合、責任をとる立場にあるが、間もなく再開される「甲状腺評価部会」の新メンバーに選出されており、引き続き被曝の影響を否定する主張をするものと見られる。
◎山下俊一(長崎大学教授)
明石真言(放射線医学研究センター)
伊藤國彦(伊藤病院)
鈴木元(放射線影響研究所)
衣笠達也(原子力安全研究協会)
井上優介(北里大学医学部教授)
稲葉次郎(放射線医学総合研究所研究総務官・ICRP第2専門委員会委員)
遠藤啓吾(群馬大学名誉教授・日本医学放射線学会理事長・日本核医学会理事長)
甲斐倫明(大分県立看護大学教授・ICRP第4専門委員会委員)
草間朋子(東京医療保健大学副学長・大分県立看護科学大学名誉学長)
小西淳二(京都大学名誉教授・体質研究会理事長)
酒井一夫(東京医療保健大学教授・ICRP第五専門委員会委員)
佐々木康人(元放射線医学総合研究所理事長・UNSCEAR日本代表・ICRP委員会委員)
柴田義貞(長崎大学客員教授 元放射線影響研究所長崎疫学部長)
柴田徳思(千代田テクノル大洗研究所アドバイザー・元アイソトープ協会専務理事)
嶋昭紘(東京大学名誉教授・環境科学技術研究所・放影協理事)
杉村和朗(神戸大学理事・副学長)
鈴木元(元放医研研究員・放影研研究員・国際医療福祉大クリニック院長)
中川恵一(東京大学准教授)
長瀧重信(放影協理事長・放射線影響研究所元理事長・長崎大学名誉教授)
山下俊一(長崎大学理事・副学長 福島県立医科大副学長)
甲状腺がんは193人へ
甲状腺検査の結果では、3巡目で新たに3人が穿刺細胞診で悪性と診断されたほか、2巡目と3巡目でそれぞれ新たに1人の患者が手術を受け、甲状腺がんと確定した。これで、1巡目から3巡目までの全ての検査において、穿刺細胞診で悪性ないし悪性疑いと診断されたのは194人となり、そのうち155人が手術を施行。一人を除く154人が甲状腺がんと確定した。
配付資料
従来は、健康診査の次に報告されてきた甲状腺検査の結果。前回から、会議の一番最後に報告と議論が行われるようになっている。新たに委員に就任した富田教授は、「本日のテーマで甲状腺検査が一番、重要なのだろう」と指摘。「民法の専門家から見ると、これまで出ている甲状腺がんが、原発事故が原因だとすると損害賠償請求が最も重要なこと」とした上で、「わざわざこれだけお金をかけて、泣き寝入りさせるのは一番いけない」と述べた。また清水一雄委員からは、甲状腺検査の結果だけが当日まで配付されないことについて、事前に確認したいとの注文が寄せられたほか、環境省の梅田環境保健部長は、甲状腺評価部会の開催にあたっては手術症例などの資料を公表するべきだと指摘した。
穿刺細胞診の適用例が大幅減
また今回の検討委員会では、穿刺細胞診の施行が大幅に減っていることが話題になった。2011年から12年にかけての1巡目の時は、2次検査を受けて検査が必要とされた人のうち、39.6%が穿刺細胞診を施行していたが、2巡目では15%に減り、3巡目ではわずか5.4%となっている。甲状腺の専門医である清水一雄教授がこの点について疑問を呈すると、甲状腺検査を担当している大津留晶氏は、ガイドラインに基づいて施行しているが、穿刺細胞診は侵襲性が高いため、5ミリ〜10ミリの患者はより慎重にしていると説明。2〜3巡目と検査がすすむに従って適応頻度が下がっていると述べた。
また3月に発覚した「経過観察症例」が把握されていない問題については、医大の倫理委員会に新たに研究計画書を申請し、把握することとなった。しかし、それらの公表時期や、福島医科大以外の症例をどのように把握するかなどについては、説明がなされなかった。
甲状腺評価部会の新たな顔ぶれ
なお今回の検討委員会では、甲状腺がんの多発状況について検討する「甲状腺評価部会」の新たなメンバーも公表した。新しいメンバーはこれまでの顔ぶれとがらりとかわり、これまで活発な発言をしてきた日本学術会議の春日文子氏や清水一雄氏などが退き、前述したとおり、被曝評価の再構築をしている国際医療大学クリニックの鈴木元氏が就任する。
また疫学の専門家としては、国立がん研究センターの津金昌一郎氏に代わり、片野田耕太がん統計・総合解析研究部部長が、東大の渋谷建司教授に代わり、大阪大学の祖父江友孝教授がそれぞれ就任する。このほか、臨床医としては、福島医科大の鈴木眞一教授のもとで学んでいた大原総合病院の阿見弘文外科主任部長が就任。小児科内分泌学会の推薦で帝京大学ちば総合医療センターの南谷幹史教授、日本内分泌外科学会の推薦で神奈川県予防医学協会の吉田明氏が決まった。
メンバーの中で唯一検討委員会と重複して委員を務めるのは、大阪大学の高野徹氏だ。高野氏は「芽細胞発癌説」という極めて特殊ながん発生機序理論を唱えている。一方、福島県民健康調査で甲状腺がんと診断された患者のDNA解析研究を行っている長崎大学の光武範吏准教授は、「多段階発癌説」を主張しており、今回の人選には違和感がある。高野氏ではなく光武氏が委員に充てるか、あるいは高野氏に組織バンクの試料を提供し、解析を依頼すべきだろう。
「Thyroid Cancer Explore2016年1月号(Vol.2 No.1)』
座談会 甲状腺癌ガイドラインの改訂ポイント
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