ほうきネット代表の中村隆市が、今年5月9日に福岡県飯塚市で「スロービジネスと脱げんぱつのお話」という講演会を行いましたが、その講演録が主催された「原発知っちょる会」さんから届きましたので、掲載させていただきます。(講演会当日は、時間がなくて話せなかったことを中村が少し加筆しています)
※録音は最初の部分が出来ていないためテープ起こしは途中からになっています。
原発をやめなければならない理由
事故が起こらなくても原発をやめなければならない理由は、たくさんあります。ドイツの再生可能エネルギーの町として有名なシェーナウの人たちは、原発に反対する100 の理由をまとめて本にしていますが、今日は私個人が原発はやめるべきだと考える、特に大きな問題を話したいと思います。
ウラン鉱山による自然破壊と環境汚染
原発は、燃料のウランを掘り出すところから自然を破壊し、環境を放射性物質で汚染しています。放射能の怖さを知らされていないウラン鉱山労働者には肺がんが多発し、その子どもたちにも病気が多くなっています。
さらに、ウラン鉱山からの廃液やウラン鉱石を掘り出した後の精錬や濃縮といった核燃料に加工する工程でも放射能汚染が広がって、周辺住民にさまざまなガンや白血病、先天性異常などが多発しています。ウラン鉱山の多くは先住民が住む地域にあり、カナダやアメリカ、オーストラリア、インド、アフリカなど世界各地で健康被害が広がり、その賠償やウラン採掘の中止を訴えています。
原発というものは、ウランを掘るところから始まって、原発の稼働、そして最後の「放射性廃棄物」の最終処分に至るまで、さまざまな差別の上に成り立っていて、生態系と人々の健康を害しています。
原発が稼働し始めると
原発は事故を起こさなくても
日常的に様々な問題を起こしている
まず、原発は日常的に放射性物質を海や空に放出しているため、原発周辺の住民に健康被害が出ています。ドイツ政府による疫学調査では、小児白血病や小児がんが増えています。そして、原発で働く人たちも被ばくしています。原発というものは被曝労働がなければ、動かしたり検査したりすることはできませんが、原発で働く「被ばく労働者」の皆さんは、放射線の本当の怖さを知らないまま働いています。そして、被曝する放射線量は、電力会社の社員よりも下請け、孫請け、ひ孫請けといった会社に雇われた人たちの方が多くなっています。
なかなか認められないんですが、これまでに10人以上が白血病や悪性リンパ腫で労災認定を受けています。被ばく線量が最も低くて労災認定された人は、5ミリシーベルトで認定されています。(※追記:2015年10月20日に福島原発の事故処理作業員が白血病になり、事故処理作業員として初めて労災認定されています)
海の生態系
原発がものすごく高温になるために、海水を引き上げて冷やし、その結果7~7.3℃くらいに熱くなった海水をまた海に戻すわけですけど、海の生き物にとって7℃温度が上がるというのは大変なことです。地上にいる我々にとっても気温が7℃上昇するというのは大問題ですけど、海水温が1℃上昇するというのは気温の3~4倍の影響を海の生物に与えるのに等しいそうです。(電力会社は温度データの改ざんを繰り返し行っています)
もう一つ知られていないのが、海水を吸い上げる時に一緒にプランクトンとか魚の卵とか稚魚などの生き物を吸い上げてその多くが死んでしまうという問題も殆ど知られていません。
廃棄物
それから今日本では使用済核燃料を再処理するやり方で進めてきています。幸いに、青森県六ヶ所村の核燃料再処理工場が今うまく動かなくて止まったままなんですけど、一度試運転で動かしたんですね。その時も、かなりの放射能を放出しています。わかりやすく言うと原発が一年間に出す放射能の量を1日で出すと言われてます。ですから、原発1基の365倍くらいの放射能を放出するということになります。ものすごい放射能の量です。
それから100万年も毒性が残る放射性廃棄物の問題です。
今年、京都大学原子炉実験所を定年で退職された小出裕章さんは、放射性廃棄物という言い方をされないんですね。廃棄できないものだから、放射性毒物とか廃物という言い方をされます。ここには100万年と書いてます。よく10万年という言い方がありますが、アメリカのユッカマウンテンという廃棄物処理場をめぐる裁判の判決では、100万年の管理が必要だという判決がおりています。
とにかく10万年であっても人間が想像できない長さの毒性を持っているということですね。そして、それに加えて原発事故が起きたらどうなるかということです。
原発の周辺では
さきほどお話したドイツの政府が7年程前に発表した数値ですけど、原発周辺5km圏内に住んでいる5歳以下の子どもは小児がんの症例が全国平均の1.61倍、白血病は2.19倍という疫学調査の結果が報告されています。
いろんな調査があって、フランスやアメリカや韓国でも疫学調査がされてます。どこの調査でも原発に近いエリアほど病気が増えていると報告されています。アメリカでは、「原発が止まって乳児死亡率が54%減少した」という報告もあります。つまり、原発が稼働しているときは、赤ん坊がたくさん亡くなっていたということです。そして、日本でも年々増加している乳がんに関する疫学調査では、原発が多い地域と乳がん死亡者が増加している地域が重なっているという重要な報告があります。
下の図は、統計学者のJ.M.グールドがマッピングした調査結果で、色の黒い部分は乳がん死亡者が増加している地域
High Risk Counties Within 100 Miles of Nuclear Reactors
グールドはこの分布結果に、ある法則性が存在することに気づいた。それは次の図を見て頂ければ一目瞭然である。
上図は、全米に設置されている原子力発電所104箇所の所在マップである。
韓国では原発の周辺で甲状腺がんが多発していて(原発から5km以内の女性住民の甲状腺がん発生率は一般の2.5倍も高い)甲状腺がんになった女性が裁判を起こして勝訴し、甲状腺がんの発症に対する責任が原発にあるという判決が出ています。
経済を考え環境問題をやっていたら有機農業へ
今日は、主催者からの依頼で、脱原発や脱被ばくを進めるために、スロービジネスの話をするんですが、この言葉はナマケモノ倶楽部という環境団体を一緒につくった辻信一さんという文化人類学者と共に考えた言葉なんです。今、世の中にいろんな問題を引き起こしている大きな理由の一つに皆が忙しいという問題があると思うんです。忙しいからいろんなことを考えないままに日々を過ごしている。そして、大事なことも考えないままにことが過ぎていく、ということがあると思うんですね。ファーストフードという言葉に対して、スローフードという言葉があります。
そんな風に問題のある言葉にスローという言葉をつける。そういう言葉遊びみたいなことをしていてスロービジネスという言葉が生まれたんです。
ここに経世済民という言葉を書いています。
これは経済の元々の語源なんですけども、経世というのは世の中を治める、済民は民を救う。平たく言うと、世の中を平和にして人々を幸せにするのが本来の経済の役割であるということを、先ほどお話した三浦梅園が強く言っていたんです。
経済にはもう一つの経済があるんです。
それは独り占めの経済だと梅園は言っているんですけど、それを乾没と言ってます。乾いて没する。これはどういう経済かというと、特定の者だけが富を独占して、庶民が苦しむような、現代人が未来世代の生存基盤である生態系まで破壊したり汚染するような、独り占めの経済です。この世界は今、いろんな意味で独り占めが横行していると思います。経世済民の経済が助け合いとか分かち合いの経済だとすれば、乾没の経済は独り占めの経済であり、そのことが世界を危機の崖っぷちまで連れて来ているということだろうと思います。
この写真は胎児性水俣病の患者さんですけど、私が環境問題とか経済の問題を考え出す一つの大きなきっかけが胎児性水俣病の患者さんとの出会いなんです。私は19歳の時に出会ったんですけども、それまで水俣病に全く関心はなかったんですね。水俣病だけじゃなくて環境問題にも社会問題にも関心がなかったんですけど、私の母親が熊本出身で、私と同世代の人たちに胎児性の患者さんが多いということを知って、自分自身も胎児性水俣病で生まれていてもおかしくなかったということに気付いたことが大きなきっかけで、公害や環境問題などに関心を持つようになりました。
関心を持ち始めた頃にちょうど朝日新聞が『複合汚染』という有吉佐和子さんの小説、化学物質の問題を取り上げた小説を新聞に連載し始めたんですね。それを読んでいると化学物質のいろんな問題、農薬とか食品添加物とか合成洗剤などの問題が色々出てきました。この写真は田んぼに殺虫剤を撒いてる写真ですけども、仮に一つの農薬あるいは一つの食品添加物を検査して問題がないとしても、様々な農薬や食品添加物が世の中にあふれていて、それが複合された結果どうなるかっていうのは誰にもわからないんです。ものすごい種類ですから、その組み合わせも数限りなくある訳で、その組み合わせ一つ一つを検査することはできないということなんですね。
こういう化学物質が溢れ出して、人間の病気や環境問題がいろいろ増えていくんですけども、病気の代表的なものは一つはガンですけど、もう一つはアレルギーですね。アレルギーの中のアトピー性皮膚炎というのは、当時は子どもの頃にアトピーでも成人になるに従って治っていくことが多かったんですけど、今はなかなか治りにくい病気になっていますね。
そういうことを学ぶ中で、自分で有機農業をやり始めたんですね。山村に移って無農薬の米をつくって野菜をつくって鶏を飼ってという暮らしを始めました。
子どもがいたので暮らしていくのに現金が必要で、野菜を売りに行ったんですね。その野菜があまり買ってもらえなかったんです。まあ、35年も前の話ですから有機農業っていう言葉を多くの人は知らない時代で、スーパーに並んでいるピカピカの野菜に比べて非常に見た目が悪いんですね。小さかったり曲がっていたり、ちょっと虫食いがあったり。そういうことが、評価されなかったんですね。
食べ物にとって重要な安全性とか栄養価とか美味しさは申し分ないんですけど、ただ見た目がいつも見ているピカピカの野菜とは違うということで買ってもらえなかったんです。そういう体験をして、(消費者っていう言葉はおかしな言葉ですけども)消費者の意識が変わらないと有機農業は拡がらないと思ったんですね。
それで私は消費者の団体である生活協同組合に就職をして、そこで有機農業を拡める仕事を始めたわけです。
で、机の上で農薬のことを学んだりするだけではなく、生産現場に出かけて行って、農家の方と一緒に汗を流し農作業をするんです。そういう体験を重ねる中で無農薬で農業をするということがどういうことか、次第にわかってくるようになるんですね。
そして、それまでスーパーなんかで野菜が安く売られているのを見たとき、「キャベツ1個50円で売ってる、うわぁすばらしい」と喜んで買ってた人たちが、そういう体験をすることで「50円で売られてたら作った人はいくらもらってるんだろう」ということを考えるようになっていくんですね。
そういう人が変わっていく姿を見ていて私は、「消費者から人間になっていってるんじゃないか」と思ったんですね。つまり消費者という立場からだけしか見えなかったのが、生産者のことや環境のことやさらには将来の世代のことも考える「人間」が増えていってるんじゃないかと。そうやって、生協の中にすごく有機農業に対して理解が広まって、有機農業の生産者も増えていったんですね。
1986年チェルノブイリ事故で学んだこと
そんな時に、1986年、29年前の4月26日にチェルノブイリ原発事故が起こりました。
日本から8,000Km離れているんですが、1週間で放射能は風に乗って ~私は放射性物質のことを放射能という言い方をしますけど~ 放射能が風に乗って飛んできました。
これは左がストロンチウム90、右がセシウム137で、こういう風に数値が高くなってるというデータですけど、日本でもこういうことが起こったんですね。
今、日本ではストロンチウム90をほとんど測ってないんですね。検査した数値がほとんど発表されてないんです。それは検査が大変だからというんですけど、チェルノブイリでは検査をして発表しています。なぜ、日本ではそれができないんでしょうか・・・。
話を戻すと、有機農業をやってた田んぼや畑も、いったん原発事故が起これば汚染されてしまうということがその時に明らかになって、ただ食べ物や農業のことだけやっていたんでは、環境や食の安全を守ることはできないということがわかったんです。それ以前にアメリカのスリーマイル島原発が事故を起こした時から原発には反対だったんですけど、直接的に放射能が日本まで流れてくるという体験をして一層原発というものの恐ろしさを感じました。
もう一つ、私にとって非常に悩ましい問題が起こったんです。それは当時の日本の食料自給率は5割で、残りの5割は輸入してたんですけども、その輸入食品の中に放射能に汚染された食品が沢山入ってくるようになったんですね。それで、国が基準を決めて、当時1kg当り370ベクレルという基準をつくって、それ以上汚染されたものは輸入しないと決めたんです。
私がいた生協は「とんでもない、子どもたちにそんな汚染数値が高いものを食べさせるわけにはいかない」と独自の基準をつくって ~10ベクレルという基準なんですけど~ それ以上汚染されたものは生協では販売しないということを決めたんですね。私はそのことは当然のことだと思いました。子どもたちの健康を願ってつくられた生協なので、そういう汚染の酷いものは子どもたちに食べさせられないという考え方に賛成です。
ただ、日本で輸入しないと決めた370ベクレル以上に汚染された汚染のひどいものが沢山出てきたわけですね。日本以外の国でも汚染基準を決めたところは多かったので、じゃあその汚染されたものがどうなったのかということが気になって調べてみたんですね。
そしたら、その多くが「途上国」と言わてる国に回って行ってたんです。驚いたことに援助物資として、援助の名前で送られたものが多かったんです。この途上国という言葉もあまり好きではないんですけども、そういう国の子どもたちは元々食べる物も不足していて栄養が足りなくて健康状態が悪い子どもたちが多いんですけど、そこにまた援助物資として汚染食品が回っていったんです。
自分たちが食べたくないもの、自分たちの健康を守るために輸入しなかった汚染食品が間接的に途上国の子どもたちにまわっている、そういう問題に直面した時に、何かとても後味の悪い、治まりのつかないような気持ちになったんですね。そして、その気持ちがきっかけで途上国のことを考えるようになって、フェアトレードと言われる仕事をするようになっていったんですね。
途上国の人たちとつながって、有機農業を広めたり、交流していく中で、いずれ子どもたちの力になれたらいいなと考えたわけです。それが、有機栽培のコーヒーをつくってもらって、フェアトレードで輸入して、自分たちで焙煎して販売するという仕事のきっかけなんです。
で、この写真ちょっとだけ紹介すると、これは森林農法という栽培方法で作っているコーヒーなんですね。通常のコーヒー栽培というのは森林を全部伐採してコーヒーだけを大量に栽培します。プランテーション農法といいますけど、この写真の農法は「アグロフォレストリー」と言います。森林農法とか森林農業と訳してるんですが、森と共存する農法なんですね。
今、生物の種の絶滅を防ぐために一番重要なことは森を守ることだと言われてますが、その森と共存できる農法として、非常に重要だと言われてます。
こういうコーヒーを栽培しながら森を守り、自然と共生している人たちと提携して、少しずつ森林農法を広めてきたんですが、いまエクアドルやメキシコの森林農法で自然を守ってきた人たちは最大の危機に直面しています。
それは、鉱山開発という名の自然破壊です。
ウラン鉱山もそうですが、鉱山開発というものは、生態系を根こそぎにします。森も山も大地も破壊します。目先の経済のためにかけがえのない自然を破壊しつくします。
今、エクアドルとメキシコの友人たちは、子どもたちに自然を残すために命がけの闘いをしています。そして、彼らを苦しめている鉱山開発のもとをたどれば、先進国がつくり出した大量生産、大量消費、大量廃棄という使い捨ての暮らしがあります。捨てれば捨てるだけ、さらに鉱山開発が世界のどこかで行われます。私たちは、この自然破壊を生み出す暮らしを見直して、持続可能な循環型の社会をつくっていく必要があります。
汚染地の声からチェルノブイリ医療支援へ
『ほうきネット』と『スロービジネス』
一方で86年に原発事故が起こって、それから3年ぐらいして、当時ウクライナという所はソビエト連邦の一画だったわけですけども、なかなか言論の自由がなくて自由に発言できなかったんですね。そういう時代に、ゴルバチョフ大統領がグラスノスチという情報公開を進めて行ったんです。そのことで、チェルノブイリの汚染地からの声が届くようになったんですね。その中に、お母さんたちのメッセージが多かったんです。「今、子どもたちがどんどん病気で倒れています。でも私たちには、子どもたちを救う力が無いので助けてほしい」と、そういうメッセージだったんですね。
それを受けて、九州の脱原発に取り組んでる人たちが中心になって「チェルノブイリ支援運動・九州」という団体を作ったんですね。松下竜一さん ~もう亡くなりましたけど~ が代表で、事務局長は深江守さんでした。
そのチェルノブイリの医療支援に取り組む団体の一会員として私は参加したんですけど、参加する中で、現地の様子もいろいろわかってきて、支援が必要なこともよくわかるわけですね。で、市民団体はどこもそうですが、経済的に厳しい中で活動しているので、家賃だけでもかからなければ助かるということで、事務局を私の会社に置いてやっていたんですね。
今日はスロービジネスの話をしないといけないんでその話をすると、チェルノブイリ支援運動・九州ができたのは1990年です。事故から4年後なんですけど、その時私はお金が無かったので寄付ができなかったんですね。それでお金はないんですけどコーヒーは大量にあったので「コーヒーが売れたらそれから寄付をしていきます。コーヒーを買って下さい」ということを公にして伝えていったら全国から買ってくれる人たちが増えて、そのおかげで沖縄から北海道までお客さんが増えたということがあります。
このことはあとでお話する『放射能から子どもを守る企業と市民のネットワーク』という団体を作った大きな理由にもなっているんですけど、多くの方は、いろんな問題を知った時に「何か協力できたたらいいな」と思うんですね。でも寄付だけするっていうのは、1回は寄付しても続けて何度も寄付はされないんです。でも、有機栽培のコーヒーとか紅茶があったら、せっかく飲むんだったら、そういうコーヒーを飲んで、しかも環境に良くてチェルノブイリの医療支援にもなるんだったら、それ買おうという人たちは多いんです。だからそういう人たちが、コーヒーとか紅茶だけでなくていろんなものを買う時に、どうせ買うんだったら環境や人間にとっていいものを買おうという風にしていけば、この社会はいい方向に向かっていくと思うんですね。
そういうことからコーヒーを売り始めたら、現地のことをいろいろ聞かれるようになったんです。「現地はどうなってるんですか」って。それで、一度も現地に行ってないっていうのはマズイなと思って、それじゃ行こうということで、1992年ですね、原発事故から6年後にチェルノブイリの汚染地に行きました。
医療支援
これは白血病の子どもです。
これは薬とか医療機械を渡してるんですけど、これを受け取ってる人はベラルーシの赤十字の総裁なんです。アントン・ロマノフスキーという人ですけど、こういう人が協力してくれたんで、すごくスムーズに必要なところに必要な薬や超音波のエコー ~甲状腺なんかを調べる~ 医療機器を届けることができました。
そのエコーのことで特に話しておきたいことは、福島とチェルノブイリの原発事故を比べて、「チェルノブイリで甲状腺ガンが増えたのは4年目以降だ」と決めつけて、「だから、福島原発事故から2~3年で甲状腺ガンが急増してるのは放射能の影響じゃない」と政府や福島県は言っています。
私たちは、チェルノブイリ事故の6年後から甲状腺を検査する超音波診断装置(エコー機械)を病院に届けてきましたが、現地の病院には甲状腺を検査するまともな機械が無かったんですね。古い型で、故障して使われていなかったり、機械がないところが多かったんです。外国の援助で、ちゃんと検査できる機械が入ったのが4年目くらいからなんですね。ですからもっと早くから性能が良いものがあればもっと早くわかってるはずです。
この子どもたちは2人とも甲状腺の手術して傷跡も残ってますけど ~手術の傷の跡を「チェルノブイリのネックレス」というイヤな言い方がありますが~ こういう大きな傷をつけないで傷跡があまり目立たない手術が、今は拡まっています。
それは、いま長野県松本市の市長になられた菅谷昭さんの尽力が大きかったと思います。ベラルーシでお会いしたことがありますが、菅谷さんはチェルノブイリ原発事故の後、当時信州大学(医学部)の助教授だったんですけど、助教授のイスを捨てて退職金を持ってベラルーシに行って、退職金がなくなるまで5年半も現地で医療支援を続けたんですね。そのことは、当時NHKが『プロジェクトX』という番組で取り上げたんですが、今、菅谷さんが日本政府の被ばく対策を批判するようになってからは、NHKは菅谷さんを取り上げませんね。放射能汚染地の子どもたちが山村留学のような形で汚染地を離れる「まつもとこども留学」の取り組みなどは、本来ならNHKが率先して取り上げるべきなんですが・・・
保養
薬や医療機器を病院に届けることと合わせてもう一つ大事だったのは、いま日本でも行われている「保養」という取り組みです。先程も紹介されてたように、福島を初めとする汚染地の子どもたちが、一定期間だけでも汚染地を離れて被曝しないで済む場所で汚染されてない安全なものを食べて健康を回復するような取り組みなんですけど、チェルノブイリで当時それを支援をしていました。
その支援で、ようやく転地療養施設「サナトリウム・九州」(九州の人たちの支援でできたので、その名がつけられました)ができて、そのオープンの時に行ったのが初めての訪問でした。それが原発事故から6年後の1992年なんです。
これが、オープンした時の写真なんですけど、23年前の写真です。まだその当時、保養施設はあまり無かったもんですから、いろんな新聞が取り上げてくれました。
保養施設には、医療施設も併設していて、それからこれは食堂ですけど、汚染されていない安全な食べ物が食べられます。ビタミン類なども非常に重要なので、ビタミンもしっかり摂れるようにやっていました。
こういう所に子どもがクラス単位で保養に行けるんですね。担任の先生も同行して、24日間滞在していました。私は、1年のうち24日間でどの程度効果あるのかなと思っていましたけど、確実に効果があるということで、保養という取り組みは国全体で続けられています。サナトリウム九州は今はもうありませんが、国全体で公的に保養することが拡まっています。
移動検診車
それともう一つ重要だったのが、移動検診車の支援でした。以前、私が勤めていた生協などがかなり応援してくれて、「チェルノブイリ支援コーヒー」を買ってもらったり、寄付していただいたことも大きな力になって医療機器や薬だけでなく移動検診車を現地に届けることができました。
「移動検診車導入による早期診断・治療システム確立」というプロジェクトに取り組んできました。この取り組みを始めた理由の一つに、放射能汚染地の多くが 自給自足的な農業を中心とした地域が多くて、現金収入が少ないために、遠方にある専門の病院に検査に行くお金がないということもあったんですね。体調が悪いにもかかわらず検査をしないまま甲状腺ガンが肺などに転移している人たちがいたんです。そうしたことをできるだけ防ぐために、放射能汚染地をまわる移動検診車を贈呈しました。
そして、日本からお医者さんも一緒に同行してくれました。日本は原爆治療の経験があるため放射線治療に関しては優れているんですね。その技術を現地で学んでもらって、今では日本のお医者さんが行かなくても検査や細胞診ができるようになっています。というより、今は現地のお医者さんの方が上手になっていると思います。
伝わってくる健康被害データ
そういう取り組みを積み重ねてくる中で、信頼を得られたからだと思いますが、普通ならもらえないデータをもらえたんですね。これは、ゴメリ州にある子ども病院の実際のデータなんです。
これを要約して、事故前の85年と94年を比較すると、急性白血病 2.4倍、喘息が2.7倍、糖尿病 2.9倍、血液の病気3倍、先天性障害 5.7倍、ガン11.7倍、消化器系の病気 20.9倍。これ、子ども病院の生のデータなんですよね。
これが76年と95年を比較したベラルーシ全国のガンの増加倍率。
これはですね、日本でもそうなんですけど、事故前と事故後の比較をするときに国単位でしますよね。でも、国全体で比べるとあまり目立たないんですね。だから本当はゴメリ州とか、ゴメリ州の◯◯地区というふうに見ていく必要があるんですけど、それでも国全体で見てもこのくらい大きく差が出ているということなんです。
ここに出ている腎臓、甲状腺、結腸あたりは今、日本でも病気が増えてきています。
(宝島「福島県で急増する「死の病」の正体を追う!~セシウム汚染と「急性心筋梗塞」多発地帯の因果関係~」より)
この表の2010年と2012年を比較すると、800人ほど死者数が増えています。
通常、甲状腺ガンは100万人に1~2人、福島では117人
いま福島で、事故当時18歳以下の子どもたちの甲状腺検査をしています。検査の結果、甲状腺ガンが117人も見つかっています。ガンの疑い30人も含まれるんですけど、疑いというのはほぼガンです。穿刺吸引細胞診で細胞を取って検査しているので、ほとんど間違いないんです。今まで、1人だけ良性だったといわれてますけど、疑いといわれてる子どもたちもほとんどガンなんですね。
117人もガンが見つかったことに対して、「スクリーニング効果(症状もないのに一斉に検査したから、たくさん見つかったんだ)」と言うんですね。確かに、スクリーニング効果もあると思います。しかし、多すぎるんです。あまりにも甲状腺ガンが多すぎるんです。
1巡目の検査を「先行検査」と言い、2巡目の検査を「本格検査」と言っていますが、1回目の先行検査で「異常なし」だった子どもから、2回目の本格検査で8人もガンとガンの疑いが見つかっています。わずか2年ほど前には、のう胞も結節(腫瘍)もない「異常なし」と判定されていた子どもたちです。(※追記:8月31日現在、1巡目の検査で112人だった「ガンとガンの疑い」は、2巡目でさらに25人増えて137人となっています)
もともと子どもの甲状腺ガンというのは100万人で1~2人と言われていました。福島には事故当時、18歳以下の子どもは37万人くらいしかいなかったんで、本来なら一人も出ない数字なんです。
ほとんどのお医者さんは、子どもの甲状腺ガンを日本では診てないんですね。そのくらい子どもには稀な病気なんですけど、それが沢山見つかってきています。
それでも、一斉検査をしたからたくさん見つかったんであって、放置してても問題ないものを見つけている。皆を一斉に検査するのはやめた方がいいって言う「専門家」が出てきたんですね。それは大阪大学の教授や東大の教授が言ってるんですが、検査をしたい人だけ検査をすればいいと言ってるんです。
それは「甲状腺ガンというのは大したことないんだ」という考え方なんです。甲状腺ガンは、放置しててもガンの進行が遅いから問題ないと言ってるんです。
彼らの最大の問題は、小児甲状腺ガンは転移が早いというチェルノブイリの経験に学んでいないことです。専門家としては、失格だと思います。
早いガンの転移
この写真の2人は、おばあちゃんと孫なんですけど、若いおばあちゃんは、私と同世代で、ナターシャさんという人です。彼女は、原発事故の後に病気になったり障害を持つ人たちが、地域で孤立しないようにということで福祉作業所をつくった方なんですね。その作業所で作られた民芸品を買わせてもらって、日本で販売した収益も医療支援に活用されています。
このナターシャさんには2人子どもがいたんですね。1人は息子さんで、9歳の時に被ばくして21歳で甲状腺ガンが肺に転移して亡くなっています。娘さんは胃ガンになって、それが全身に転移して亡くなってます。「日本の医療技術で助けてもらえないか」と相談されましたが、相談を受けたときはもう手遅れの状態でした。
その亡くなった娘さんの子どもが、このナターリアです。今、ナターシャさんの家族は、ナターシャさんとこのお孫さんしか生き残ってないんです。こういう親よりも子どもが先に亡くなってる例が多いんです。
原発事故の怖さ、放射線の影響というのは、とにかく免疫力を低下させます。特に、年齢の低い子どもたちが様々な病気になります。そして、ガンの転移が早いんです。
菅谷昭(医師、長野県松本市長)著 『原発事故と甲状腺がん』より
ベラルーシでは、15歳未満の子どもの甲状腺ガンは、3人に2人がリンパ節への転移があり、6人に1人が肺に転移してるんです。その中の転移した1人がこのナターシャさんの息子さんで、手遅れで亡くなったわけです。
そして今、福島で甲状腺がんになった子どもたちにもガンの転移が起こっていて、リンパ節への転移はチェルノブイリよりも多い74%に見つかっています。そして、肺への転移まで見つかっている状況で、検査をやりたい子どもだけやればいいという発言は、信じ難いですね。
とにかく国は、データを取りたくないんだと思います。
「甲状腺がんの多発は、スクリーニング効果のせいであり、チェルノブイリでは事故から4、5年後から増加したのに、福島では事故の2年後から増加している。だから、原発事故の影響とは考えにくい」という決めつけで、絶対に原発事故の影響で健康被害が出ていることを認めない、というのが政府の方針だと思います。
今、甲状腺検査を福島県以外でもやり始めた自治体が出てきて、精密検査が必要な子どもがたくさん見つかっています。(※追記:8月26日、福島に隣接する北茨城市で甲状腺がんの子どもが3人見つかっています)福島県外の汚染地でも公的な検査を広げるべきですし、検査する年齢も18歳以下に限定せずに19歳以上にも検査を広げる必要があります。
チェルノブイリでは
ベラルーシとウクライナがチェルノブイリ原発事故の影響を最も大きく受けていますが、ベラルーシの方は、政府がまともな情報を出さないんですね。今の大統領はルカシェンコという大統領ですけど、ヨーロッパ最後の独裁者とも言われています。彼は、原発を推進してるんですね。それで、推進している原発が問題が大きいということになると推進しにくいので、あまり問題を表に出さないんです。今の日本も同じです。
ですから日本からベラルーシに調査に行った人は、政府系の人たちの案内を受けたら、ベラルーシでは問題が無いっていう話を聞いて帰ってくるんですね。どういう人に話を聞くかというのがすごく重要です。
そういう事情で、ウクライナ政府の方が本当のことを発表しています。
チェルノブイリ原発事故から25年をまとめた政府報告書というのがあります。そこに非常に重要なことが出てきますが、その一つが子どもの健康状態なんですね。
赤いグラフが慢性疾患を持つ児童。それが2003年の段階でもう8割くらいになっています。私が現地で訪問した村では、「この村には健康な子どもはいません」という話を聞きました。そして、一人の子どもが幾つもの病気を抱えてるという話も聞きました。このグラフでは、2003年で健康な子どもが10%になってます。このことは、今の日本にとって、非常に重要な意味を持っています。それは「低線量汚染地域」に住み続けることの危険性です。
これは、日本とチェルノブイリの比較の地図なんですけど、放射能管理ゾーン(*1)移住の権利ゾーン、移住義務ゾーンとあります。管理ゾーンというのは年間0.5~1ミリシーベルト(mSv)というエリアですけど、この地図は内部被曝も考慮した地図なんです。茶色の部分は年間1~5mSvのエリアで、ベラルーシ、ウクライナ、ロシアでは、移住の権利があるゾーンなんですね。移住のための様々な補償があります。
チェルノブイリ法というのは原発事故から5年後に出来たんですが、この法律は人々の健康を守るということを重視して、避難しやすいような法律を作っています。1mSv~5mSvまでは移住の権利があって、自分で移住するか、留まるかを決めることができます。移住先の住居と仕事の確保にはじまり、様々な補償があるので、避難しやすくなっています。そして、移住するしないにかかわらず薬の無料化や毎年無料で検診が受けられたり、サナトリウムへの旅行券で保養に行くこともできます。
ところが、日本はもう5年目に入ってますけど、今も20mSv以下だから戻っていいと言ってるんです。
*1: 移住権利ゾーン基準、チェルノブイリでは1~5mSv、日本では20mSv以上。
実際に今、20mSv以下の「避難指示解除準備区域」が次々と解除されています。
(※補足記事:2015年9月5日現在 福島民友より↓)
解除された区域の住民は、1人あたり月10万円の賠償金を打ち切られます。そして、子どもを守るために全国に避難した人たちは、「避難指示」されていないのに避難した「自主避難者」と位置付けられて賠償はされず、わずかな住宅支援が行われてきたのですが、その命綱ともいえる家賃の補助まで打ち切ると言っています。
日本の政治がまともなら、子どもや若い世代を守るために税金を使い、国が全力を挙げて取り組むべきことを放置してきただけでなく、被ばくを強いるような政策を次々と実行しています。
この日本の異常な状況に対して、国連人権理事会が重要な指摘をしていますが、その話をする前に福島の現状をもう少し見ておきたいと思います。
福島事故を思い出して
原発事故をザッと振り返りたいと思います。
これは3月16日の西日本新聞ですけど、「使用済み燃料 損傷恐れ」って、これ多分ほとんどの人が意味がよく分からなかったと思うんですね。原子炉に入っている核燃料だけでなく、使用済み燃料も冷やし続けないと放射能を放出してしまうので、そのための冷却プールがあります。その燃料プールから水が減って、冷却できずに損傷の恐れがあるということを言ってるんですけど・・・全国の原発でも冷却プールに使用済みの核燃料が大量にあって、冷却できなくなったら同じことが起こります。
原発は動かせば動かすほど、使用済み核燃料が発生するため、どんどん危険性が高くなっています。そして、未来世代にも重荷を背負わせることになります。
放射線測定器で検査を受けている子どもたちが象徴的ですが、こういう状況を我々はつくってしまったということですね。
この記事が5月16日の新聞なんですね。事故から2カ月以上たった飯館村の写真ですけど、あれだけの汚染地に2カ月も子どもを置いたままにしておくという、その異常さですね。この日本社会の異常さがよく現れてると思います。
今、飯舘村の子どもたちに精密検査が必要な「二次検査対象者」が増えてきています。
(飯舘村の二次検査対象者:H23年 0.6% → 1.7% H26年)
福島事故後の健康被害
チェルノブイリ原発事故の後、ベラルーシやウクライナでは特に、心臓や血管の病気(循環器系疾患)で亡くなる人が急増しました。
(NHK ETV特集 チェルノブイリ原発事故・汚染地帯からの報告 第2回 ウクライナは訴える)より
特に、原発に近い北ウクライナでは、循環器系の病気が激増しました。
そうした状況を現地で見聞きしてきた私は、原発事故後の東北や関東の循環器系疾患(心臓や血管の病気)に注目してきましたが、福島県の循環器系疾患と心疾患、脳血管疾患の死亡率は、原発事故前より増加し、全国平均の1.35倍~1.45倍になっています。
福島県だけでなく周辺県の心疾患死亡率も高くなっています。
*データソース(政府統計)
福島県の心疾患死亡率が、原発事故前の2010年度の全国8位から2011年度は全国1位になっています。続いて、福島に近い宮城と茨城の死亡率が高くなり、そして、岩手の心疾患死亡率も全国6位から4位になっています。これは心臓病の発症率ではなく「死亡率」です。
心疾患の中でも特に目立つのが「急性心筋梗塞」の死亡率で、この4年間で全国平均の2.0倍から2.5倍に増えています。(全国1位)原発事故の前から福島に心臓病が多い理由の一つは、塩分の摂り過ぎなど生活習慣病もあるかもしれません。しかし、塩分摂取が多い東北の中でも、特に福島県の心臓病が多い理由には、放射能の問題もあると思います。それは、福島には原発が10基もあったことと、明らかになっている「小さな事故」だけでも沢山あるからです。しかも、日本で最初の臨界事故まで起こしてるんです。起こしてるんですけど、それを29年間も隠ぺいしてたんです。東京電力は隠ぺいやデータの改ざんを繰り返しやってきました。ですから、過去に福島の10基の原発が、いつ、どれだけの放射性物質を放出しているかは分かりません。――そういう企業が営業を続けられるということが、一般社会ではあり得ないことですけど、電力会社の場合はそれが有りなんですね。
先ほど、原発は事故が起こらなくても原発の周囲は病気が増えてるという話をしましたが、福島にある10基の原発は、それに加えて「小さな事故」もいっぱい起こしてきたので、心臓病が増えてもおかしくないと思います。
*データソース(政府統計)
これは、慢性リウマチ性心疾患の死亡率の全国平均と福島県とを比べたものですが、福島は原発事故の翌年から急増して全国平均の約3倍も死亡率が高くなっています。(全国1位) これは、もう一度言いますが、発病率ではなく死亡率です。
ここまでは、心疾患の死亡率ですが、「DPC対象病院」の治療実績を見ると、狭心症と慢性虚血性心疾患の治療数・手術数も年々増えています。
そして、福島だけでなく、東北、関東で心筋梗塞が増えています。
<心筋梗塞>原発事故前年から4年間の全国医療機関 診療実績結果(2010年度〜2013年度)
(みんな楽しくHAPPYがいい)より
こうした心臓病や甲状腺ガンだけでなく、さまざまな病気が増加傾向にあります。
チェルノブイリで増えた白内障や血管の病気、貧血などが福島県でどうなっているか、DPC対象病院の治療実績で調べてみました。
*白内障、水晶体の疾患(1845→2816→3366→3687)
2.0倍(2013年/2010年)
2.5倍(2012年/2010年)
貧血のデータは「治療数・手術数」と「死亡数」の両方が見つかりましたが、両方とも増加傾向にあります。
甲状腺に近い扁桃腺や喉の病気も激増しています。
福島県は5.2倍(2012年/2010年)206→318→1071
栃木県は10.0倍(2012年/2010年)69→288→707
こうしたデータを見て、福島県を中心に東北、関東で健康影響が出てきていると思うのが普通の感覚だと思います。3月に新聞記事を見てびっくりしたんですけど、環境省がようやく今年の4月から、福島の病気を調べ始めるというんです。当然、病気が増える可能性があるのに調べてなかったということなんですね。
私たち大人には、原発事故を起こしてしまった責任があります。特に、放射能汚染地の子どもたちに対して、大きな責任があります。そして大人には、子どもたちを最優先で守る責任があると思います。私個人は、チェルノブイリの健康被害を見てきた者の責任として、子どもたちをできるだけ放射線から遠ざけるように伝え、健康被害のデータを発信し続けてきました。ところが政府は、4年以上も経ってようやく調査をすると言うのです・・・これまで何も調査してなかった・・・。
安倍首相は、オリンピックを日本に誘致するプレゼンテーションで「汚染水はコントロールされてる」と言ったことは知られていますが、もう一つとんでもないことを言っています。「健康被害は、今までも、現在も、将来も問題ないと約束する」と言ったんです。ところが、政府は健康調査を何もしてなかったわけです。何の調査もしないまま安倍首相は、健康被害は今までもない、将来も問題ないと約束すると世界に公言したのです。
私はこの言葉の怖さにだんだん気づいてきました。この発言は、健康被害が出てきても認めないという彼らの姿勢を示していると思います。
この政府は、予防原則という言葉を知らないと思います。彼らが自ら進んで健康対策を取ることは無いと思います。そのくらい汚染地の人たち、特に影響が大きい子どもたちは見捨てられてると思います。恐ろしい政権だと思います。
外国人の見方を2つ紹介します。
これは、2013年の東京新聞ですが、一部抜粋します。
◆国連人権理事会 福島事故、健康である権利侵害
(2013年6月22日 東京新聞)から抜粋
日本では福島原発事故後「健康を享受する権利」が侵害されている。国連人権理事会で5月、被災状況を調査した健康問題に関する報告があった。放射線量の 避難基準を厳格にすることなどを求めたものだが、日本政府は「事実誤認もある」などと激しく反発、勧告に従う姿勢を示していない。「人権を軽視している」 との批判が高まっている。
5月27日にスイス・ジュネーブで開かれた国連人権理事会で、福島原発事故後の健康問題に関する調査の報告があった。特別報告者、アナンド・グローバー氏の報告と勧告は、日本政府にとって厳しいものだった。
報告では、原発事故直後に緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)の情報提供が遅れたことで、甲状腺被ばくを防ぐ安定ヨウ素剤が適切に配布されなかったと強く批判した。
その後の健康調査についても不十分だと指摘。特に子どもの健康影響については、甲状腺がん以外の病変が起こる可能性を視野に、「甲状腺の検査だけに限らず、血液や尿の検査を含めて全ての健康影響の調査に拡大すべきだ」と求めた。
日本政府が福島の避難基準について1年間に浴びる被ばく線量を20ミリシーベルトとしていることに対しては、「科学的な証拠に基づき、年間1ミリシーベル ト未満に抑えるべきだ」と指摘。「健康を享受する権利」を守るという考え方からは、年間1ミリシーベルト以上の被ばくは許されないとした。
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もう一人、ベラルーシ科学アカデミーのミハイル・マリコ博士がこう言ってます。「チェルノブイリの防護基準、年間1ミリシーベルトは市民の声で実現されました。核事故の歴史は関係者が事故を小さく見せようと放射線防護を軽視し、悲劇が繰り返された歴史です。チェルノブイリではソ連政府が決め、IAEA(国際原子力機関)それからWHO(世界保健機関)も賛同したゆるい防護基準を、市民が結束して事故5年後に平常時の防護基準年間1ミリシーベルトに直させました。それでも遅れた分だけ悲劇が深刻になりました。福島でも早急な防護基準の見直しが必要です」――まったく同感です。
チェルノブイリを経験した人たちが言っています。
お金がない国でも、必死に子どもを守ろうとし続けているのに、どうして日本は子どもを守ろうとしないのか ――と。
この写真は福島県二本松市の佐々木るりさんという方のお嬢さんですけど、普通はこういう写真は公にしたくないですよね。でも佐々木さんは、いま子どもたちがどういう状況か皆んなに知ってほしいということで、娘さんの写真を公開されています。私が今日持参した資料の中に『小さき声のカノン』という映画のチラシがありますが、この中に佐々木るりさんと子どもさんたちも登場します。いま日本で、この映画を沢山の人に視て頂いて、子どもたちが置かれてる状況を知って頂きたいと思います。
私の持ち時間が80分という話だったので、これを見ていただいて、私の話を終えたいと思います。これは東京新聞に出た記事の写真です。
福島の子どもたちがデモに出たとき掲げたプラカードです。「政府の人が心から福島の子は大丈夫と思っているのか知りたいです」「ぼくは、げんぱつじこまえのふくしまにかえりたい」――こういうことを子どもたちが言って、大人が答えてないという状態ですね。
そうした状況のなかで、九州では川内原発が、もうじき再稼働しようとしているということなんですね。(※追記:九州電力は8月11日に川内原発1号機を10月15日に2号機を再稼働させました)
ほうきネットのこと
最後に、ほうきネット(放射能から子どもを守る企業と市民のネットワーク)の話をちょっとしておきます。お手元の資料(当日の資料)の中に、子どもたちを被ばくから守ろうという写真が載ってるページがあります。
そこに「ほうきネット」がどういうことをやろうとしているかということを書いてます。まず、医療支援と被ばく軽減の支援をしていきます。
健診の拡充
一つは健診を充実させることです。いま福島県外の汚染地では検査がされてないんですね。チェルノブイリでは当然のようにされていることがされていないんです。事故当時19歳以上の人たちも甲状腺の検査を受けてないんです。受けたい人は自費で受けないといけないので、19歳以上の人たちも福島県外の汚染地でも無料で検査できるように活動を進めていきます。それから、移動検診のためのポータブルのエコー(超音波診断の医療機器)を購入して、車で移動して検査を受けやすいようにする予定です。
最終的には、甲状腺以外の健診も含めて、国にやらせる必要があります。少なくともウクライナやベラルーシでやっていることを日本ができないはずがありません。
保養の支援など
(省略)
今日の話を聞かれて、協力しようという方には、そこに寄付先が出てます。
【以下質疑応答】
Q、今起こっている、またこれから起こりうる健康被害は直後の被曝によるものか、あるいは呼吸による、食べ物による内部被曝なのか、どのように考えられますか
A: まず、甲状腺がんに関しては、事故の後に大量に放出された放射性ヨウ素が大きな影響を与えましたが、半減期が8日間なんで3ヶ月くらいすると放射能の強さは1000分の1以下になります。これからは、セシウムの問題が中心になりますね。セシウム137は半減期が30年ですから、30年経って2分の1、そして更に30年経って4分の1っていう減り方ですね。放射能の影響が1000分の1になるのに半減期のおよそ10倍の300年かかります。セシウムは体全体に影響を及ぼしますが、特に心臓、血管、脳、腎臓、甲状腺、神経系、消化器系などに影響を及ぼし、とにかく免疫力を低下させて、身体を弱くしたり、老化の進行を早くします。
例えば、甲状腺を放射性ヨウ素で被曝して影響を受けてる人をさらに影響を大きくしてしまうということなんですね。だから事故直後の被曝も大きいですけど、その後も続いてるんです。しかも、今だに原発は収束していなくて、ずっと放射性物質を出し続けてるんです。止まってないんです。そのことを忘れないようにする必要がありますね。今も放射性ヨウ素も恐らく出ていると思います。
(追記:2015年 福島県下水汚泥からヨウ素!)
原発は事故を起こさないでも周りに健康被害が出るんです。だから今、事故が収束してないんですから、もっと大きな影響が出るのが当たり前なんですよね。
食べ物による被曝についてですが、いま食品は100ベクレルという基準を作ってますけど、100ベクレルという基準は、原発内での作業で汚染された手袋や雑巾などをドラム缶に詰めて、それを保管しないといけないのが100ベクレルです。廃棄物として管理をしっかりしないといけないのが、100ベクレル以上。ところが、99ベクレル以下の食品は売っていいんですね。だから食品の100ベクレルっていうのは、前の370ベクレルに比べたら低いですけど、子どもに食べさせられるようなもんではないですね。
あと、呼吸で体内に入るものは、かなりあると思います。汚染数値が高い地域は除染をして住み続けようとしています。しかし、除染しても数値がまた高くなることが多いですね。それは、風によって塵や微粒子が巻き上げられたり、森林から花粉や胞子などによって放射性物質が移動していることを示しています。
さまざまな事情で避難ができずに、そこに住み続けるしかない人たちは本当に大変だと思うんですけど、飲食物を注意しても、どうしても呼吸から入ってくるものがあると思います。
去年から原発近くの汚染数値がすごく高い所の道路を通っていいようにしたんですね。そうすると、そこを通る車によって汚染が拡がっていく可能性もあります。原発事故の後、日本の中古車を外国に売ろうとしたときに、車の汚染がひどかったという問題もありました。今も汚染がひどい地域の道路を何時から何時までは通っていいことにしてしまっています。
(※追記:子供がセシウムを吸い込む”被ばく”イベントが福島で決行された)
Q、今のにつながって、チェルノブイリ周辺~ベラルーシにしろウクライナにしろ~そういう汚染の高い所を通る時の対策はどうだったんでしょうか。拡散しないような政策は取られたと思うんですが、日本に比べてどうだったんでしょうか。
基本的には、汚染の高い所には検問を設けて入れないようにしていました。特別な理由で入る場合だけ、許可を得られれば、限られた時間だけ入れるということでしたが、一般の車が入ることはできないようになっていました。
原発事故から9年後に、私たちがチェルノブイリ原発の近くに行ったときでも、現地のジャーナリストが許可を取ってくれて、複数の検問を通りましたが、一般の車は全く見ませんでした。
今年は福島原発事故から5年目なので、事故から5年後を比べてみると分かりやすいと思いますが、チェルノブイリと日本では基本的な対処の仕方が全く違います。その一番代表的なことが、やっぱり人命ですね。人権とか人命を大事にする、大事にさせることを市民が声を上げて認めさせたということですね。ですから住む場所にしても、汚染数値によって、住んでいい場所と住んではいけない場所を決めて、さらにその中間には、「移住の権利がある地域」も決めたんです。その基準となる数値が1mSvと5mSvで、5mSv以上の汚染地には居住できないということですね。
1~5mSvのエリアは、移住の権利があって、移住したい人は移住に際しての住居や仕事なども補償されるので、移住しやすくなっています。
ところが日本の場合は、20mSv以下だったら住んでいいということにしています。そこに妊婦さんや子どもたちも含めて住んでいいと決めている。そして、避難していた人たちを戻らせようとしてるんですね。――私は、これは殺人だと思いますね。一定の確率で被害が出てくるんです。それを平気でやってるわけです。
(※追記:「20ミリは高すぎる」〜南相馬・避難基準裁判始まる)
福島県の学校給食の問題で、ずっとお母さんたちは給食に福島県のものを使わないでほしいと言ってきたんですね。元々私は、地産地消で、その地域で地元で採れるもの(身土不二という言葉もあるように、そこで採れるもの)が一番いいと勧めてきました。でも、今の福島の状態で子どもたちが福島県内のものを中心に食べるというのは本当に恐ろしいことです。それでお母さんたちはずっと反対してたんです。最後まで反対を続けてたいわき市のお母さんたちが、色んな手を使って反対したんですけど、とうとう今年から福島県の米が使われるようになったんですね。
その反対をするのも、ものすごく大変なんです。すごい批判を受けるわけですね。「お前たちがそんなことをいつまでも言ってるから福島県のものが売れないんだ」とか、「福島に観光客が来ないんだ」と批判される。
給食に地元のものを入れる意味について農協の組合長が話しています。「学校給食を子どもたちが食べてたら、子どもたちも食べれるくらいに安全なんだと思われるから入れよう」・・・ということが報道されています。本当にひどい話ですけど、もっとひどい話が、学校給食の汚染数値を検査する機械が10ベクレルまでしか測れない機械なのに、福島県庁の食堂の検査は、1ベクレルまで測れる機械を置いてるんですね。福島県の職員は、1ベクレル単位まで安全を確認できるように専門家の意見によってそうしたそうです。子どもたちには10ベクレルまでしか検査できないから10ベクレル以下は全く確認できません。
この前、関東に行ったときに、NHKが『首都圏ニュース』というのを放送してたんですが、その内容が「未だに食品の汚染を恐れてる愚かな消費者がいて問題だ」と決めつける内容だったんです。あるスーパーは積極的に福島のものを集めて売っていて、素晴らしいというような放送をしてたんですね。
「この野菜はちゃんと検査して全く未検出です。汚染されていませんでした」っていうけど、検出限界値が何ベクレルかは全く言わないんですね。だから、どのくらいの汚染のものかわからないんです。
(※追記:福島市の米基準値超え195ベクレル/kg 2015年7月)
(※追記:南相馬の葉タバコから182ベクレル検出 2015年10月)
(※追記:福島のキノコ汚染 マツタケからも5000ベクレル超…)
それと、子どもの話をする時に伝えておきたいことは、先ほどお話しした小出裕章さんや今中哲二さんが、すごく尊敬してるアメリカ人の科学者(もう亡くなってますけど)ジョン・ゴフマンという人がいるんですが、この人が放射線の影響をずっと研究してきて、年齢による影響の大きさ、年齢別にどれくらい影響があるかという研究があるんです。それによると、0歳の子どもは、55歳の大人の300倍以上も影響を受ける度合いが高いんです。
同じものを食べたら、0歳の子どもは55歳より300倍以上の影響を受けるということなんですね。だから、50代以上の人たちが汚染食品を食べても、私は何も言わないけど、若い人たち、少なくとも子どもだけには汚染されてないものを用意するということを日本全体が協力してやらないとダメだと思います。政治が最優先で子どもを守るという意志を持つ必要があります。
Q、原発を止めるための方法は?
A:近江商人の言葉に、「売り手良し、買い手良し、世間良し」という言葉があります。売る人にとっても、買う人にとっても、そして社会全体にとっても良い仕事という価値観が日本にもあったんですけど、だんだんそれが、自分が儲かること、自分が得することが第一という傾向が強くなってきています。その結果、ウラン鉱山や原発周辺の人々や海の生物を殺したり、放射性廃棄物のような未来世代を苦しめるものを生み出す原発でも、自分にとって得になるなら再稼働させようとする人たちがいるわけですね。
「原発は良くないと思うけど、それ言っちゃうと自分の仕事に影響があるから言えない」という人も多いですね。でも、心から原発を支持している人は、ほとんどいないと思いますし、多くの人が子どもたちや未来世代の幸せを願っていると思います。ですから、そうした本当の気持ちを引き出すことが大事だと思います。
電力の小売自由化
来年4月に、電力の小売自由化が始まるんですね。これは電力会社の経営者にとっては大変な問題です。今まで競争がなくて地域独占だった電力会社は、利益を国に保証してもらっていたわけですね。いくらコストがかかっても、高い原発を建てても経営困難になることはなかったんです。
政府や電力会社は、原発は安いとずっと言ってきましたが、最近、言い出したことは、原発を持ってると不利だって言い出したんです。「原発は他の発電方法より 断然安い」と言ってきたんだから、原発の廃炉費用や再処理工場の費用、放射性廃棄物の「中間貯蔵施設」や「最終処分場」の建設費用や10万年単位の管理費用も、全て電力会社が支払えるはずだし、支払うべ きです。
ところが、来年4月から電力自由化になって、原発を持たない電力会社と競争するようになったら、今まで以上に税金を原発の尻拭いに使わせようとしたり、原発を持ってない新しい電力会社にも払わせようとしてるんです。それほど、電力会社は追い詰められています。脱原発を実現する最大のチャンスが、これからの1年だと思います。
来年4月から各家庭で、自分たちで電力会社を選択できるようになります。電気を買う側の私たちは、凄い力を持つことになるんです。
「原発を再稼働させるような電力会社からは、電気を買いません」という宣言を皆がやりだしたら、電力会社は原発を止めざるを得なくなります。「もう再稼働させません」と自分たちからやめていくと思います。でも、そこまでいくには、多くの人が「原発の電気は買いません」と意志表示をして実行することが必要になります。
実際に「原発を稼働させる会社の電気は買わない」と1~2割の人が宣言するだけでも凄い効果が出てくると思います。会社の経営者にとって、1割売り上げが下がるということは大変なことなんです。例えば、九州電力の年間売上は、1兆 9000億円くらいあります。その10%が買わなくなったら1900億円、20%なら3800億円の売り上げ減少になります。
みずほ情報総研の調査では、電気料金が高くなっても原発の電気を利用したくない人は32%いるそうです。もし、3割の人や企業が原発の電気を買わないと決断し、実行に移せば、5700億円もの売り上げ減少になります。
さらに言えば、電力会社の電力販売量は「企業向け6割」で、「家庭向け4割」なのに電力販売による利益は「企業向けは3割」で、「家庭向けは7割」になっています。(東京電力は家庭用で9割も利益を上げている)つまり、家庭用は高いんです。ですから、企業以上に各家庭がどこから電気を買うかが、脱原発に向けての大きなカギになります。
しかも、実際に電気代は原発を持ってる電力会社より新電力の会社から買う方が安く買えます。脱原発を宣言している城南信用金庫は、取引先に対して、東京電力をやめて新電力の会社に切り替えることを勧めています。城南信金の場合は、新電力の会社に切り替えて5%安くなったそうです。経産省が、おかしなことをしなければ、新電力の電気代は安くなるはずです。
そして、32%の人は「電気料金が高くても原発の電気を利用したくない」と思っていますから、その思いを実行に移すだけで脱原発が可能になると思います。
新電力会社の電気の供給力が不足する可能性はありますが、宣言する人が多くなれば、供給力の増強が加速されます。
「原発を稼働させる会社の電気は買わない宣言」を全国に広める運動を展開したいですね。
*******講演と質疑応答は以上です*******
※補足資料
2015年8月30日現在の公表データでは、
甲状腺がん104人+がん疑い33人=137人
※DPC対象病院での大人も含む「甲状腺がんの手術数」
2010年と2013年を比較した結果、全国平均は1.51倍、九州・沖縄 1.07倍 < 南関東 1.52倍 < 北関東 1.83倍 < 東北 2.18倍 < 福島 2.78倍 増えています。
九州、近畿、関東、東北の甲状腺がん手術数は、次のように推移している。
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